読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中西進編『大伴家持 人と作品』(1985 桜楓社)

大伴家持没後1200年の記念出版本。研究者七名による紹介と、年譜、口訳付大伴家持全歌集からなる。本書を通して読んでみると、大伴家持はどちらかというと長歌の人なのではないかと思わされた。それから官僚としてしっかりと務めを果たした人でもあったのだなという印象を持った。

憶良を家持は慕う。僻地の政治家として過酷な風土の下に生きる民を視、東大寺開田をめぐって在地有力者と土地問題で話し合わねばならぬ家持には、現実に密着した文学が、思想として求められたのではないか。「白雪忽ちに降りて、地に積むこと尺余なり。この時に、漁夫の船、海に入り瀾(なみ)に浮かぶ」(巻十七 3961注)という視点、芦附という食料を採ったり、水を汲んだりする生活の中の少女を見る眼、「小旱越りて、百姓の田畝稍(でんぽやくや)く凋(しぼ)める色あり」(巻十八 4122序)と眼を向ける家持。三綱五教を示して倍俗先生を批判する憶良と同様に、家持も法律を引いて遊行女婦を愛人とする史生を諭す歌(巻十八 4106-4109)を詠む。
家持の文学思想の根底には、憶良と同一の詩言之説、政教主義思想があるのではないか。ただそれを直截に「貧窮問答歌」として歌うか、「言挙げせずとも年は栄えむ」と表現するかの違いはある。その違いをもたらした原因について、ここで述べる余裕はないのだが、その思想の存在ゆえにこそ、家持歌は繊細な感情を持つとか、憂愁を含むとか、孤独感が在るとか評されるのである。(「越中時代の生涯」p96-97)

おもえば菅原道真紀貫之も真面目な官僚で、地方長官職時代に庶民の姿を見て詩の世界を大きくしていた。誠実さって大事なんだなとあらためて思った。

 

【口訳付大伴家持全歌集で私がチェックした歌】
和歌: 473, 4161, 4199, 4290
長歌: 4166, 4266, 4465

 

【付箋箇所】
4, 26, 29, 52, 96, 149

目次:
はじめに
青春時代の生涯  中川幸廣
   秀歌鑑賞  高野公彦
越中時代の生涯  山口博
   秀歌鑑賞  岡井隆
越中以後の生涯  川口常孝
   秀歌鑑賞  中西進
万葉以後の生涯  扇畑忠雄
大伴家持関係年譜 友尾豊
口訳付大伴家持全歌集 尾崎暢殃・針原孝之
   
大伴家持
718 - 785