読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

クリフォード・ピックオーバー『ビジュアル 数学全史 人類誕生前から多次元宇宙まで』(原書2009, 岩波書店2017)

図書館が再開して、自分では購入して保有してはおけない大型本に接することができるようになった。

「紀元前1億5000万年ころ アリの体内距離計」、「紀元前3000万年ころ 数をかぞえる霊長類」からはじまって、「2007年 例外型単純リー群E8の探求」、「2007年 数学的宇宙仮説」まで、全250篇の編年体数学エッセイ。16世紀あたりからの加速がめざましい。答えのない問題に熱狂的に取り組むどちらかといえば富裕層中心の娯楽としての数学という印象が浮いて来る。道具として役に立つかどうかという発想はほとんどないにもかかわらず、後年有効利用の道が出てくる法則の数々を見ていくと、効率や成果ばかり重視したときの学問のスケールの縮小ということも気になってくる。税金が使われているからといって大学以降の研究に効率や成果ばかりもとめてはいけないような気にもなってきた。50年、100年先に花ひらく何かが含まれているかも知れないのだから。

SE兼プログラマという職業柄気になったのは「1963年 ラウムのらせん」(204番目:p204)、「1972年 最初の関数電卓 HP-35」(215番目:p204)。電子計算機という新しい道具がもたらした計算力の増大によって世界の景色が変わり、計算機の新しい機能に数学の発見が重なってまた新たな解析能力を生み出しているというところが素晴らしい。以下は、素数の出現パターンを二次元平面上に描出させたラウムに関する記事。

おそらくパターンの発見よりも重要なことは、コンピュータを一種の顕微鏡として利用して構造を視覚化し、新たな定理を生み出せる可能性が、このラウムのシンプルな実演によって明示されたことだ。1960年代初頭に行われたこの種の研究は、20世紀末の実験数学の爆発的な発展をもたらした。

 こうした記事は、スピードアップされ解析能力が高まった世界のいい側面を見せてくれてうれしい。

 

250の記事の中、日本人が出てくるのは3件だろうか?
「1789年ころ 算額幾何学」(p91)の藤田貞資、「1979年 池田アトラクター」(p226)の池田研介、「1985年 ABC予想」(p234)の望月新一。内容はよくわからないが私はカオス系力学の業績という「池田アトラクター」に魅かれる。

アトラクターとは、ある程度の時間が経過した後に力学系がそこへ向かって収束する、あるいは発展してゆく集合だ。「たちの良い」アトラクターの場合、初期状態で接近していた点は、アトラクターに迫ってもまとまりを保つ。ストレンジアトラクターの場合、初期状態で隣接していた点が、最終的には大きく異なる軌道をたどることになる。つむじ風のなかの木の葉のように、それらがどこへ行くのかを初期位置から予測することは不可能なのだ。

力学系ストレンジアトラクター。その後に「レスラー写像」なんて言葉もでてきたりするので、もうプロレス記事を読んでいるようなノリになってしまった。しかもお名前がケンスケさんだなんて。ストレンジアトラクター北斗晶ノーザンライトボム(北斗ボム)しかもう頭には浮かんでこない。YouTubeは無限閲覧してしまうので手は出さない。ウィキペディアを読み、北斗姉さんの現役時代を思い出しながらすこしじんわりした。池田研介さん。ごめんなさい。決してバカにしているわけではありません。

 

クリフォード・ピックオーバー『ビジュアル 数学全史 人類誕生前から多次元宇宙まで』(岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b285215.html

クリフォード・ピックオーバー
1957 -
池田研介
1949 -
根上生也
1957 -
水原文
?
北斗晶
1967 -