読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

谷川俊太郎『どこからか言葉が』(朝日新聞出版 2021, 初出:朝日新聞 2016.09.28~2020.12.02)

八十九歳での新詩集刊行。枯れない、ブレない、色褪せない。未生の心と感性を呼び寄せる憑代としての言葉を紡ぎつづけられる稀有な詩人。地上にいながらどこか別の場所で時空をこき混ぜ合わせながら呼吸をしているような人。仙人か天使か、あるいは胎児として生きつづけている成人なのか、とにかく同時代に生きていることが不思議でもある、驚嘆に値する人の言葉。80代後半四年分の作品、52篇。

いま、ネット検索してみたら、新聞の紙上連載はつづいているようで、しかも朝日新聞社のサイトでは、部分掲載ではあるけれども、最新連載分の作品前半の言葉に触れられるという大盤振る舞い。詩人の近景もアップされていて、もう眼福、余福の極み。

仏は常にいませども、現ならぬぞあわれなる、人の音せぬ暁に、ほのかに夢に見えたもう。『梁塵秘抄

こんなことをいったら失礼に当たるのかもしれないが、谷川俊太郎の詩のなかでは神とも呼ばれている遍満する仏が、言葉と姿の佇まいで、だいぶ実体化されているようにも見える。ありふれた平凡な存在の奇蹟的な輝きが、無造作に、しかも必然性をもって置かれている不思議と、動きつづける心の常態としての不満や不足、あるいは不快のちょっとした陰影が作り出す、現象界の現実感、立体感、物質感が愛おしく描出されている。近寄れそうな気安さがありながら、並び立とうとすると、おのれの穢れが目立って恥ずかしくなってしまうような、不思議なライト・ヴァース。ほんとうのところ、これは何なんだろうと、いぶかりつつ、くりかえし読むに値する言葉。

雲を見ていると
雲を見ている気持ちに気づく
他の気持ちがみんな消え去って
ただ雲だけがある気持ち
(「雲を見ている」部分 2018年11月28日 )

 

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谷川俊太郎
1931 -

参考:

uho360.hatenablog.com

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