読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

鍵谷幸信編 西脇順三郎『芭蕉・シェイクスピア・エリオット』(恒文社 1989)よりエリオット

西脇順三郎が残したエリオットについてのエッセイ15本が収録されている。

イギリス留学もしていた西脇順三郎が同時代のエリオットを語るという、西脇順三郎側からの微妙かつ一方的なライバル的関係性もうかがえて興味深い。詩人としてよりも批評家としてのエリオットをより高く評価しているところが特徴的でもある。芸術家というよりはもともと哲学を志向した思索家的側面をエリオットの本質としてとらえてはいるが、『荒地』などの詩作活動をマラルメ以後の詩の書き方として位置づけているところなど、詩人としてのエリオットの評価も的確に行っているところはさすがで、とても参考になった。
エリオットが自由詩を一歩進めたこと、詩句の引用から成るコラージュ的創作法を実践し広めたこと、アリュージョンやパロディによって過去作品に新しい意味を付与していったこと。20世紀に入ってからの新しい詩のモードをつくったエリオットを西脇順三郎は簡潔に指摘してくれている。

かれの作詩法も詩も過去の文学を鑑賞するための手段にすぎなかった。引用やアリュージョンやパロディを中心としたかれの詩は、それがためである。かれは詩をつくることによって過去の文学を鑑賞するのであった。普通の詩人とはそこに違いが出ている。エリオットの詩はその意味でvirtuosityの詩であると思う。詩はいつも「新しい関係」を発見することがその重大な内容的な目的であると思う。
(「エリオットの影響」p343)

 

「virtuosityの詩」、名人級の技巧の詩。エリオットの技巧の詩はうっとりするようなものではなく、破壊的な技術であり、「新しい関係」の発見から見慣れぬ世界、奇妙な言語空間に導いてくれるのが特徴だ。読めば Unreal City に入りこんでいる。

 

【付箋箇所】
246, 252, 253, 255, 292, 300, 304, 311, 314, 317, 322, 326, 330, 339, 340, 343


西脇順三郎
1894 - 1982
鍵谷幸信
1930 - 1989

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com