病気がちだった詩人が生ききるために綴った詩、98篇。
種子
葡萄の種子の小さな黒い硬さよ
飲まれ易くても消化されない固さよ
消化されず理解されないことによって
芽生える種子よ
(p132)
「心弱まる己れを叱る」と付記された詩篇。
自らに与える詩
執拗に、頑固に、書こう、
血へどを吐くまで、ぶっ倒れるまで、
俺は、書こう、ぶっ倒されても、ペンと紙は忘れるな、
地べたの上で、血でもって、
豆のような字で、書きつづけろ、みんなそうして書いて、書いて、
みんなそうして死んだのだ。
(p149)
固い殻をもった「種子」そして「豆」。他からは壊されることなく内側から芽生えることを祈っているような表現。
なにものかとの戦いの姿勢を取っていることが多いため、武器や鎧として埋め込まれたいくつかの言葉が時にごつごつした印象を与えることがあるけれども、気張って絞り出した昭和の中年の詩を一度くらいは読んでおいてもいい。
※ネット上には青空文庫に詩集『死の淵から』がある。