読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

永田生慈『浮世絵八華5 北斎』(1984)

図版63点に狂歌絵本『隅田川両岸一覧』と『潮来絶句集』が完本収録されている。
三十代半ばで勝川派を去ったのちの壮年から老年にかけてのとどまることを知らない画業の営みはまさに圧巻。
七十歳になって傾注した錦絵の「富嶽三十六景」をへて、七十五歳ごろからさらに肉筆画に主戦場を代えていくところなど、常人が到底及ぶところではない。老いてますます美しく鮮烈。それは、七十歳を越えてから「ブロードウェイ・ブギウギ 」を作成したモンドリアンと同じく、畏敬と羨望の対象である。絶筆にきわめて近いといわれている作品「富士越龍図」(1849)は技術も精神性も高く、人間の可能性というものを教えてくれているようで見飽きることがない。

なお、『潮来絶句集』はこちらのサイトから閲覧可能

https://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/collection/oda/itako.html

四十代初期、宗理様式完成期の作品。描かれるのは水郷潮来の遊妓達。「北斎はあくまで清楚に、そして可憐に泥水稼業の女たちの心情を描出している」(p129)。細身の女たちの顔立ちはどことなく生活感が出ていて、他の浮世絵作家にはない好ましさがあふれている。また、同年代に洋風画へ傾注した時期があるといい、そのころの錦絵として掲載されている作品二点、「ぎやうとくしまはまよりのぼとのひかたをのぞむ」(図版43)「くだんうしがふち」(図版44)は、どことなくスーラの風景画を思わせ所有欲をくすぐってくれる。

www.heibonsha.co.jp

葛飾北斎
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永田生慈
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