読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

福岡伸一『フェルメール 隠された次元』(木楽舎 2019)

世の中には負けてもいいと思える人がかなりいる。別次元の熱狂に身を浸らせている人には、もうアッパレとしかいいようのない没入感で世界を動かしている様子を見せていただくしかない。フェルメールを愛する科学者福岡伸一は全点踏破の旅を敢行するばかりでなく、作品を身をもって生き直すために、AIによる精緻な解析と最新のプリント技術をもってフェルメール全作品の再作成を行い、展覧会まで実施した。協力企業あってのこととはいえ、そこまでするのは尋常ではない。一般人は鑑賞者として歓びの御裾分けをいただくばかりだ。

フェルメールの絵に描かれた事物。たとえば地球儀、天球儀、製図用具、地図、画中画、天文学の書物……これらには寸分たがわない実物が存在している。つまりフェルメールはあたかも写真を撮ったかのようにホンモノを写し取った。また、《小路》に描かれた家のレンガと間口の寸法。これまた実測にもとづく税務書類と完全に一致するほど正確無比に再現されている。これも、フェルメールは画家というよりは科学者であり、いかに三次元空間をありのまま二次元平面に投射するかを究明していた研究者だった、という私の見立てを支持するものだ。あるいはフェルメールはまだ写真技術のなかった時代のフォトグラファーたらんことを目指していたといってもよい。(第二章「音楽の謎」p112)

フェルメールを見つめ、関連情報を調べる福岡伸一の瞳が輝いていることが分かる。小学生だったころの昆虫少年の瞳のかがやきをずっと失わずに世界を見てきた大人の見事な著作。

 

目次:

はじめに
フェルメール リ・クリエイト作品一覧
第一章 フェルメールへの私の偏愛
第二章 音楽の謎
第三章 指紋の謎
第四章 リ・クリエイトの誕生
2012~2018年
フェルメールの旅、ふたたび
おわりに ― 芸術と科学が出会うとき

 

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ヨハネス・フェルメール
1632 - 1675
アントニ・ファン・レーウェンフック
1632 - 1723
福岡伸一
1959 -