読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

笹公人の歌集を5冊

最寄りの図書館の歌集の棚を見ていると笹公人の歌集の開架における存在感が突出していたので気になるから読んでみた。俵万智よりも目立っているとはなにごとかという思いを自分なりに解消したいがための行動である。

念力の一語に吸収されていくような非現実的現象とそれに関わりを持つ現実界での人間の感情の動きをフィクショナルな時空間から日本の伝統的な歌の形式を通して提示してみせた詩的営為。

仮想世界に仮託して現実界で生じる思いを歌うという行為に対しての需要はかなり多くて、公営図書館に所蔵されている確率はかなり高いが、これから古典として残るかどうかといえばかなり危うい。作者自身も永遠を目指しているような感じも出していない。

仮構した世界を作りつつ歌うというサンプルケースとして、短歌の世界では突出しているひとりの作家であろう。

 

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『念力家族』(宝珍 2003, 朝日出版社 2015)

 にんげんを背後霊ごと詰めこんで朝の電車はきらきら走る


 

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『念力図鑑』(幻冬舎 2005)

あの夢をあきらめたとき水槽の電気ウナギがはねた気がした

 

『抒情の奇妙な冒険』(早川書房 2008)

桃色のワンピース着た案山子いてへの字の口も少女めくなり

 

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『念力恋愛』(幻冬社 2020)

いつのまにか君の背骨を撫でていた恐竜展の順路行くとき

 

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『終楽章』(短歌研究社 2022)

満月の重たい窓辺 憂鬱の代償として歌は生まれる

 

フィクションが崩れていく際の戦略まではなかったように思えるが、フィクションを維持しつづけた後に残る時間と言語の痕跡には独自性と稀少性の輝きが多くあるようだ。

 

笹公人
1975 - 

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