読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ジュリアン・バーンズ『人生の段階』(原書2013 訳書2017)

小説、だろうか。愛する人をなくしたなかで書かれた散文。ただ、ひたすら悲しく空しい想いのなかでなされた仕事。本を読んでいると時々こういう作品に出会う。その時に感じるのは人間が生きていることの重量感だ。死者の後を追って死ぬこともできない。生き…

野口米次郎「影の放浪者」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

影の放浪者 眼には見えねど神の御手に招かれて、そよ吹く銀の風の如く、聖き空をめぐる。胸に秘むる一曲の歌………我等は祈禱の童僕(わらべ)だ。 我等の歌は、亡びし都城の跡を知らず、王国の哄笑も我等の足を止めない、我等の心は遠く、太陽、風雨を友として…

【謡曲を読む】新潮日本古典集成 伊藤正義校注『謡曲集 下』その3

能は舞、謡、衣装、面といった複数の要素からなる総合芸術だけれど、謡曲を読むだけでも十分に詩劇として楽しむことができる。「二人静」とか陶然となるような言葉の芸術であると思う。サ行の擦過音が静かに渡りゆく感覚に身をゆだねられる。また掛詞の言葉…

鈴木喜博『対比でみる日本の仏像 Understanding Japanese Buddhist Sculpture through Visual Comparison』(2019)

日英バイリンガルの書籍、特に美術関係の入門書には、質の高いものが多い。世界マーケットも視野に入っているので、各関係者の気合の入り方が企画段階から違っているのではないかと勘繰りたくなる。入門書とはいえ、読者を甘く見ず、急所を伝えようとしてい…

落合陽一『これからの世界をつくる仲間たちへ』(2016)

世界は「魔法をかける人」と「魔法をかけられる人」に二分される。魔法=高度な科学技術にはタネも仕掛けもあるのだから、カラクリに通じて、自分の人生に役立てましょうという勧誘の本。さらには、専門性を生み出し彩りを生むための変態性を擁護していると…

萬葉集巻五 793 大伴旅人

よのなかはむなしきものとしるときし いよよますますかなしかりけり世間虚仮、然れども世間のみ在り。

野口米次郎「歌麿の線画美人」( The Pilgrimage 1909『巡礼』 より )

歌麿の線画美人 それを線の美だといふのは余りに平凡、だが線は古くて、霊化して香気となつて、(この香気こそ生死を翺翔して永久にはいつた霊だ、)夢の手細工、糸遊(かげろふ)のやうに、自由に浮動している………歌麿の美人は流れる微風の美しさであらう。…

羽海野チカ『3月のライオン』15巻は傑作なので単独作品としてもおすすめ

税込594円。昼食一回分くらい。騙されたと思ってシリーズ途中の15巻でも手に取ってほしい。羽海野チカは個々の脇役にも深い愛情を注ぐ漫画家で、本巻は野火止あづさと田中太一郎(表紙の右側二人)のスピンオフエピソードとして読んでも十分に満たされる。70…

横山悠太『唐詩和訓 ひらがなで読む名詩100』(2019)

唐詩百篇をひらがな七七調で和訳したアンソロジー。食べにくい乾物をうまく戻し調理して、みずみずしさを感じられるようにしてくれている、といったところの一冊。原詩、読み下し文、作品評もついていて、入門書としてゆったり読むのに十分なつくり。杜甫3…