読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

新・世界現代詩文庫 秋吉久紀夫編訳『現代中国少数民族詩集』(2003)

少数民族詩集ということで政治色が強いのかもとページを繰ってみたら、政治的でもあるけれど、地方の風土に根差した生活感情のなかで生み出された詩歌が多かったような気がした。中国に居住する少数民族は編訳者によれば55あり、そのうち27民族、46名の詩人の作品を訳出している。広く紹介することがまずは編者の狙いなのであろう。読後感としては乾いた草原の風のなかにいる馬の姿が残った。

以下引用する作品は馬のいない3作品(すべて部分)。イメージよりも言葉として印象深かった作品をピックアップ。

野生の桃がぴちぴちして、いま生まれ出ようとしている
二度と老いのまなざしで野生の桃を見てはならない
二度と野生の桃の路を塞ぎ妨害してはならない
あくまでかれを助ければかれは出て来れるのだが
あなたがかれを助けなければ、意地でもかれは出てこようとする
回族 ムーフー「野生の桃」より 1986年 )

 

わたしたちの経歴は
どれも平凡なセンテンスだらけだけれど
生命のなかに不屈の元素を注ぎ込みさえすれば
他人の嘲りを排除するには及ばない
わたしたちも秋の日を踏み鳴らせる
(ブミ族 ルールオディヂー「秋の日に遠く離れて」より 1999年)

 

天真爛漫な幼年期が、過ぎ去ると、
すばらしい夢の世界は、いまどこにあるのか。
目の前にはただ故郷の土地を流れている
清い天の川あるばかり、サワサワと……
(ムーラオ族 バオユイタン「天の川」より 1984年)

作品数94、正味120ページ程度。まずは入門、というか門を眺めさせてもらったといったところ。

文庫情報 of 「詩と思想」

目次:
第1輯 北部草原地区
第2輯 東北森林地区
第3輯 新疆ウイグル自治区と周辺地区
第4輯 チベット高原と周辺地区
第5輯 西南山地地区
第6輯 南部稲作地区

秋吉久紀夫
1930 -