読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

國分功一郎『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』(講談社現代新書 2020)

國分功一郎の良いところでもありもの足りないところは紛うかたなき優等生であるところ。嫉妬も込めて、ちょっとだけ刺激不足といいたくなる研究者であり、破綻しない正統派の市民政治の実践家であると、今現在、個人的には捉えている。学究の面でも行政の面でも実践に参入しない者に対する関心の薄さが滲み出ている印象は、それだけ活動の本気度を汲むに値するものであるが、冷めつつ燃える意図に賛同するには、なかなかに腹を括る必要があって、容易には参入しかねる雰囲気がある。

ですが、意識は行為において何らかの役割は果たせるのです。スピノザは意志が自由な原因であるという思い込みを批判しました。しかし、それはあなたの意識の否定ではありません。あなたはロボットではありません。意識は万能ではないし、意志は自発的ではない、ただそれだけのことです。
(3. 自由へのエチカ 4「行為は多元的に決定されている」より)

「ただそれだけのことです」。ただそれだけのことなのだが、その驚愕の事実の伝え方が、國分功一郎にあっては極度に凡庸化されている。ほかのスピノザ研究者との温度差を考えると、それはそれで事件なのではないかと思いもする。

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【付箋箇所】
27, 45, 84, 86, 115, 119, 123, 124, 149, 152, 156, 176

目次:
はじめに
1. 組み合わせとしての善悪
 1 スピノザとは誰か
 2 哲学する自由
 3 神即自然
 4 『エチカ』はどんな本か
 5 組み合わせとしての善悪
 6 善悪と感情
2. コナトゥスと本質
 1 コナトゥスこそ物の本質
 2 変状する力
 3 多くの仕方で刺激されうる状態になること
 4 コナトゥスと「死」の問題
 5 万物は神の様態
 6 神は無限に多くの属性から成る
 7 コナトゥスと社会の安定
3. 自由へのエチカ
 1 「自由」とは何か
 2 自由の度合いを高める倫理学
 3 自由な意志など存在しない
 4 行為は多元的に決定されている
 5 現代社会にはびこる意志への信仰
4. 真理の獲得と主体の変容
 1 スピノザ哲学は「もうひとつの近代」を示す
 2 真理は真理自身の基準である
 3 真理と向き合う
 4 物を知り、自分を知り、自分が変わる
 5 主体の変容と真理の獲得
 6 AIアルゴリズムと人間の知性
5. 神の存在証明と精錬の道
 1 懐疑の病と治癒の物語
 2 真理への精錬の道
 3 精錬の道は自ら歩まねばならない
 4 対話相手としてのスピノザデカルト
おわりに


國分功一郎
1974 - 
バールーフ・デ・スピノザ
1632 - 1677