急性骨髄性白血病を患い、病床で自由律俳句を作った俳人。創作の期間はおよそ3年で、全281句が残された。詠まれる対象は病院での療養生活に現われるものだけで、きわめて限られたものであるが、病と死に向き合った表現は強くそして澄んでいて人の心によく届く。季語に頼らない自由律の表現であることも手伝って、その作品は翻訳されて海外でも高い評価を得ている。短命ではあったが、生涯の最後に自分にあった表現に出会ったことは幸運であったかもしれない。
作品の合間に挟まれる住宅顕信に関する文章はルポライター佐々木ゆりの手になるもので、過剰な思い入れなくストレートにその生涯を伝えている。発病前も発病後も変わらず、だいぶ奔放で強情な人であったらしい。
今回ひさしぶりに読み返してみたが、ネット社会になる以前の創作活動なんだなということが思いにのぼってきた。ネット上にリアルタイムで発表することができていたらどう変わっていただろうか? 変わらなかっただろうか? 創作の基盤となる孤心に夾雑物が入りにくかったネット以前の環境があってこその純粋な表現だという気がしないでもない。
私撰10句
降りはじめた雨が夜の心音
たいくつな病室の窓に雨をいただく
点滴と白い月とがぶらさがっている夜
雨雲、やりきれない思いが雫しだした
窓に病人ばかりがたえている冬空
バイバイは幼いボクの掌の裏表
曇り空重く話くいちがっている
仕事のない指が考えごとをしている
ずぶぬれて犬ころ
若さとはこんな淋しい春なのか
住宅顕信
1961 - 1987