読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ペトラルカ『無知について』(原書 1371 岩波文庫 2010 )

イタリア・ルネサンスキリスト教的ユマニスムの主唱者ペトラルカが、同時代のスコラ文化圏のアリストテレス派知識人から受けた「善良だが無知」という批判に対する論駁の書。アリストテレスの自然哲学思想にも通じているペトラルカ自身の学識もやんわりと織り込みながら、人文主義の古典系列やキリスト教信仰の優位性を論敵をむやみに貶めることなく説いた、手紙形式の作品。桂冠詩人の側面の良さがあまり作品から感じられないところはすこし残念だが、人のよさを感じさせる文章にはやはり魅力があった。訳者による解説にも助けられ、ペトラルカの知識人としての大きさや重要さを感得できたことも収穫。

だれか人間が人間的努力によって万物を知りつくすなどということは、わたしには認められません。これが原因で、わたしは酷評されるのです。嫉妬の根はほかにあるとしても、おもてむきの原因は、わたしがアリストテレスを崇拝しないということです。しかし、わたしが崇拝すべき方はほかにいます。
(Ⅳ「古代作家をめぐって」 p108-109 )

信仰の対象は人によって違うし、立場が違う人が近づけば争いも起こりやすい状況にはなるだろうけれども、相手側の立論にも通じて良いところは良く認めがたいところは認めないという適当な距離の感覚を失わないほうがよい。情念に振り回されるようになると、知的に良い部分さえ消えてしまう。ペトラルカの『無知について』では、その距離感覚を味わうことができる。

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【付箋箇所】
63, 64, 69, 108, 113, 121, 146, 147, 217

目次:
Ⅰ 序―新しい厄介な戦いを強いられて
Ⅱ 四人の若い知識人によるペトラルカ評とその動機
Ⅲ ペトラルカの自省と心境
Ⅳ 古代作家をめぐって
Ⅴ 古代作家とキリスト教信仰
Ⅵ 終章―ポオ河の流れにて

 

フランチェスコ・ペトラルカ
1304 - 1374
近藤恒一
1930 -

 

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