読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

新倉俊一編集『西脇順三郎コレクション』Ⅰ・Ⅱ 詩集(慶應義塾大学出版会 2007年) 中高年の鈍重さを背負いつつ底抜けてしまった稀有な日本の近代詩人

西脇順三郎の詩作の大部分を収める選集。晩年の詩作にふれることは編集方針上できないが、『宝石の眠り』まで、著者70歳までの詩作品を完本収録していることに意義がある個人選集。

個人的には詩的表出のタガがどこかはずれたと想定される『宝石の眠り』以降の作品が収録されていないのが非常に残念ではあるのだが、全篇に出会えていない『禮記』『壌歌』『鹿門』にあらわているであろう老年ならではの自在さに対する期待は高まるばかりである。

とりたてて世の中に棹差すことに向かうのではなく、自在さを貫こうとした時に立ち塞がってくるものに対して、困惑と共に、逃れる道筋を見出そうとする世間知を、最大限に生かそうとする知性の働きが、意識的に言語化されているのが西脇順三郎の老年の詩作なのではないかと思う。

70歳以降の作品で劇的展開をとげて、同時代性を突き付けてくるような詩人はそうはいない。

中高年の鈍重さを背負いつつ底抜けてしまった稀有な詩人、西脇順三郎。全作品を容易に読めることができない状況とともに、想起すべき詩人であると主張したい。

フェニックスが甦るであろう熾火のような詩篇

 

西脇順三郎刊行詩集:

Ambarvalia 1933年 椎の木社  39歳
旅人かへらず 1947年 東京出版 53歳
近代の寓話 1953年 創元社   60歳
第三の神話 1956年 東京創元社 63歳
失われた時 1960年 政治公論社 67歳
豊饒の女神 1962年 思潮社   69歳
えてるにたす 1962年 昭森社  69歳
宝石の眠り 1963年 筑摩書房  70歳
禮記 1967年 筑摩書房     74歳
壌歌 1969年 筑摩書房     76歳
鹿門 1970年 筑摩書房     77歳
人類 1979年 筑摩書房     86歳

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西脇順三郎
1894 - 1982
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