読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

高崎直道『「大乗起信論」を読む』岩波セミナーブックス35 (岩波書店 1991)

岩波文庫での現代語訳と解説の仕事が1994年。それに先立つこと九年、1985年に全六回の岩波市民セミナーで行なった講義内容を書籍化したもの。
高崎直道は如来蔵思想の専門家で、本書では、『起信論』の本覚・不覚・始覚の三極構造と、不生不滅の真如と心消滅の妄念の和合識としてのアラヤ識(大乗起信論では阿棃耶識の表記)について、ほかの唯識思想との関係や日本での本覚思想や即身成仏としての受容などを絡めながら丁寧に語り伝えている。
内容が濃いために著者の当初の計画の半分ちょっとしか語り終えていないというところは残念ではあるのだが、岩波文庫の補説を大量に含む親切な現代語訳とともに、一般読者層にとってはかなり分かりやすい『大乗起信論』への導入書となっている。
セミナー形式のために、専門論文とは違って、思いついたことをサッとはさんでいるような部分も興味深い。

インド人の気の長い修行論、いわゆる「漸修」説に対し、中国仏教の特色は頓悟説にあるといわれます。(中略)中国での頓悟説の成立には『華厳経』『涅槃経』『勝鬘経』など、やはり如来蔵思想に縁の深い経典の訳出が機縁となっているようですが、どうして頓悟的な考えが中国で次第に広まっていったかということはまた別に考えてみなくてはいけないと思います。一つには輪廻という考え方があまりなじまなかったからではないかと思いますが、これは単なる憶測です。

輪廻という考え方に馴染まないのは現代日本人にとってはもっとそうで、信仰とは別に仏教が築き上げてきた知の遺産に浴したいときの方法として、無神論的な頓悟からの接近の仕方もあるのかなという示唆を与えてくれる発言であるように私は感じた。

 

www.iwanami.co.jp

【付箋箇所】
8, 10, 15, 37, 41, 45, 46, 52, 64, 65, 66, 69, 72, 74, 82, 83, 86, 93, 141, 146, 152, 162, 163, 174, 185, 192, 203, 210
目次:
第1章 『起信論』の意図と綱格
第2章 起信の主体と対象
第3章 迷いと悟り―心生滅について
第4章 迷悟の相関
第5章 修行と信心
第6章 『起信論』をめぐる問題
補講
あとがき

高崎直道
1926 - 2013

www.iwanami.co.jp