折口信夫の口述筆記による現代語訳万葉集。最終巻は第十三巻から第二十巻までを収める。
口述筆記という体裁も手伝ってか、若い折口の爽快感ある万葉解釈が印象に残る。さっぱりとした、すがすがしい読後感だ。
折口が教えた中学生にもわかるような現代口語に落とし込み、訳注なし、原文と口語現代語訳でどんどん進められていくため、意外なことに詞書などもしっかりと読み取っていたりする。句読点付きの原文は、読み取りやすい意味のブロックに区切られ、長めのリズム感を形成し、親しみやすい。和歌ももちろんだが、長歌の魅力がより伝わってくる仕事となっている。
3223:折口口語訳
稲光りが光っていた空が移り変わって、時雨が降ると、雁さえもまだ来て鳴かないうちに、神並山のさっぱりとした、神の田の番屋の垣の中の、池の堤の神木の槻の木の枝に、瑞々した枝を差し出す紅葉をば、嫋(かよわ)い女だけれども、手に纏き付けた鈴の音さえも、ゆらゆらと立てて、それを引き寄せて、枝もぶらぶらになる程に枉(ま)げて、それを折って、私は持って行くことだ。いとしいお方の頭飾りとして。
稲妻が空に光り、九月の時雨が降ると、雁はまだ来て鳴かない、神南備のふもとの清らかな御田屋の、垣の内の田の池の堤に生える、百に足りぬ斎槻の枝に瑞々しい枝をさしのべる秋の赤葉よ。その枝を、手に巻き持った小鈴もゆらゆらと、私はたわやかな少女だけれども、引き寄せ峯のたわみさながらに、たくさん手折って私は持って行く。あなたの插頭(かざし)に。
学者中西進の現代語訳と比較してみると、折口が根っからの詩人であることが分かる。学者も詩人も共にいたほうがよいが、詩人のほうが親しみやすいことは確かだ。
【付箋歌】
3223, 3254, 3265, 3336, 3399, 3408, 3750, 3753, 3761, 3850, 3852, 3897, 3962, 3976, 4160, 4290, 4486
参考:
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