読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ブルーノ・ムナーリ『ファンタジア』(原書 1977 みすず書房 萱野有美訳 2006)発想の方法を教えてくれる楽しい一冊

ブルーノ・ムナーリはイタリアのプロダクト・デザイナー、グラフィック・デザイナー。代表作は「役に立たない機械」。レオ・レオニとウンベルト・エーコが特に親しいお友達。発想を柔らかくしてくれるとともに、これまでの美術作品がよってたった方法論をい…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】22. 価値崩壊 生成の過剰に圧倒される価値

ヨーロッパのニヒリズムについて探求が深められていく。意志の向かう先が絞り込めない状況の根底には、生成するこの世界の過剰がある。 三 ヨーロッパのニヒリズム ニーチェの思索における五つの主要名称 《最高の諸価値の無価値化》としてのニヒリズム ニヒ…

岡田温司『天使とは何か キューピッド、キリスト、悪魔』(中公新書 2016)境界域で活動する天使という中間的な存在

神学的な天使の考察ではなく、文化的表象、イメージとしての天使の位置と歴史的変遷をあつかった一冊。 わたしが強調しようとしたのは、天使の表象が、古来より基本的にずっと、キリスト教と異教、正統と異端との境界線を揺るがしてきた、ということである。…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】21. 逆転 プラトン主義が逆転した後のぐらぐらした不安定な地平

本能だけで生きられる動物的生と、社会的文化的地平で生きられる人間的生の違い。人間的生は社会的なものなので、地平は活動域を広め深めながらも、生息域としての結構を満たすように醸成していかなければならない。 二 同じものの永遠なる回帰と力への意志 …

杉浦康平『文字の美・文字の力』(誠文堂新光社 2008)漢字文化圏の文字に込められた思いにひたる

ビジュアル本でほっこりする。80点で紹介する文字意匠に内在する文化的生活の力。 双喜紋、喜を横に二つ並べた「囍」の文字装飾のおさまりの良さに喜びが呼び起こされる。込められた意味を知るとラーメン用のどんぶりの飾り文字にさえ、どことなく愛おしさ…

シャルル・ステパノフ&ティエリー・ザルコンヌ著、中沢新一監修『シャーマニズム』(原書2011 創元社「知の再発見」双書162 遠藤ゆかり訳 2014)豊かな自然と祝祭を喜ぶ精霊と交信するシャーマンという存在

一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア、中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】20. 調和 渾沌と渾沌とのバランス

環境という外側世界も渾沌、人間という内側世界も渾沌。渾沌と渾沌とのバランスがとれたところが正義であり、正当であり、是なるもの。バランスのあり方のさまざまな差異の認識を含めてのバランス感覚としての生の感性。受容と開発。 形而上学的に把握された…

佐藤優『「日本」論 東西の”革命児”から考える』(角川書店 2018) 此岸指向 革命を控えるというラディカリズム

スクラップアンドビルドではなくストック活用。新規開発よりも修繕メンテナンス。革新というよりは保守。ユートピアに一挙に飛ばずに目の前のゴミを拾いながら歩いて進む。指摘されなければ知らないルターと日蓮の共通性を学ぶ。 時空を経て、お互いにはコミ…

マルティン・ハイデッガー『有についてのカントのテーゼ』(原書 1961, 1963 理想社ハイデッガー選集20 辻村公一 訳 1972) 超越論的統覚と論理学

大事なことが語られることはなんとなくわかるが、読み取るのが難しい。訳文が旧字旧仮名なので輪をかけて難しくなっている。また今度に備えてメモ。 【カントの『純粋理性批判』の中での注解(§16, B134, Anm.)】 かくして統覚の総合的統一は最高点であり、…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】19. 真理と芸術、持続と生成

ニーチェの思想の中では真の世界と仮象の世界の性格が逆転する、ということが展開される数章。 図式欲求としての実践的欲求 地平形成と遠近法的展望 了解と打算 理性の創作的本質 ニーチェによる認識の働きの《生物学的》解釈 存在の原理としての矛盾律(アリ…

マルティン・ハイデッガー「プラトンの真理論」(原書 1947, 1954 理想社ハイデッガー選集11 木場深定 訳 1961)「洞窟の譬喩」についての考察

自由は正当な要請に従う自由であって、単に無軌道無拘束ということとは異なる。 さてしかし、すでに洞窟の内部においてすら眼を影から火の光の方へ、またその火の光の中で自らを提示する事物の方へ向けることが困難であり、のみならず成功しないとすれば、い…