読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野口米次郎の詩

筑摩書房現代日本文學大系41で野口米次郎の詩を読んだ。目的は鈴木春信の「雪中相合傘」を主題とした詩だったが、残念ながら収録されてはいなかった。また代表的な作品『二重国籍者の詩』も収録されておらず、ネット検索しても詩集がほとんど出回っていないことが分かった。消えた詩人のようになってしまった原因は、戦争協力に対する非難と二重国籍者としての自嘲をそのまま詩人の評価としてしまったところにあるようだ。生前は評価も高く、現在でも色々なタグ付けが可能な詩人であるにもかかわらず、読まれる環境が準備できていないというのはかわいそうに思える。
近年、堀まどか『「二重国籍」詩人 野口米次郎』のサントリー学芸賞受賞などによって再評価の機運も上がっているようにもみえるのだが、もっと実作に簡単に触れられるようにしてもらいたいものだ。

まずは簡単に触れられる野口米次郎の肖像として堀まどか氏の論文2点などにも注目してほしい。
・野口米次郎のラジオと刊行書籍に見る「戦争詩」--『宣戦布告』と『八紘頌一百篇』を中心に
・野口米次郎の英国講演における日本詩歌論--俳句、芭蕉象徴主義

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空しい歌の石

雨が降ると私の夢はのぼる……六月の雲のやうに、
歌が、私の耳もとに湧きたつ、
風より軽い足拍子が、或は高く、或は低く、
波うち、私の眼は夢で燃える。
『私は何者だ?』
『奈落の底の幽霊だ、
夜暗の上に空しい歌の石を積みあげ、
焔のやうに踊り狂って、やがては消えうせる。』

まだ、消えうせてしまってはもったいない。

 

野口米次郎
1875 - 1947