読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

蓮實重彦『知性のために 新しい思考とそのかたち』(岩波書店 1998)結果よりも過程が大切らしい

第26代東京大学総長時代(1997-2001)の9講演を収めた書籍。久しぶりに再読。頻繁にドゥルーズの『差異と反復』に言及していることにちょっと驚く。『マゾッホとサド』やフーコー論『新たなるアルシヴィスト』の翻訳者でもあるので別に驚くこともないのだが、それほど強い結びつきがあるとは感じられて来なかったので、講演での話の種に使っているんだと新鮮に感じた。

『摸倣の法則』と『差異と反復』という二冊は、何よりもまず、好奇心にみちた書物です。それは創造性の対極にあると思われている摸倣という概念をめぐる思考が恐ろしいほど深められてゆく独創的な書物なのです。だが、その独創性が、あくまで結果だということを見落とさないでいただきたい。わたくしたちが強く惹きつけられるのは、それを導きだす過程に持続していただろう著者の好奇心の苛烈さにほかなりません。重要なのは結果ではなく過程だという事実が、そこには実践的に生きられています。重要なのは独創性ではなく好奇心だという事実も、そこには実践的に生きられているのであります。
(「21世紀の知のために」p34 )

1997年度の入学式式辞での発言。9講演とも高級大学の式典での講演なので、学外の者が聴いたり読んだりすると疎外感を味わうところも結構あるのだが、それは無視して美味しいところだけをいただく。『摸倣の法則』のほうはガブリエル・タルド(1843-1904)の著作。『差異と反復』とともに読んでみたい一冊となった。蓮實重彦はやはり批評家なので人の心に着火する能力に長けているんだなあとあらためて思った。

さて、「結果よりも過程が大切」ということは分かった。が過程における質を維持するのは結構大変だ。なにごとも見返りなしにそうそう続けていけるものではない。だからドラッカーが「利益はコスト」だといったことを踏まえて「結果はコストだ」と見なして、小さな成果を出し続けることが必要にもなってくると思う。負債ばかり出していたら金銭的にも精神的にも持続できない。好奇心でも独創性でもなく、最低限の計算力、マネジメント能力がいちばん必要だと思う。凡人には凡人なりの戦略が必要だ。無償の愛はそれほどは続かない。

ちなみに、岩波書店のサイトには「21世紀の日本のゆくえを考える現代人に必読の書」と書いているにもかかわらず「品切中」となっている。必読レベルのものであっても読まれ続けなければ市場にはとどまれないのだから残酷だ。図書館にあっても閉架だとほとんど新しい読者はつかない。もったいない。

www.iwanami.co.jp

蓮實重彦
1936 -