群青色の空
空は群青色の天井ででもあらうか、どこかに立つている無形の春といふ煙突から吐きだす靄(もや)が、空の天井の穴から入つて来て、私共の広い世界といふ部屋を一杯にする。無邪気といふ形容詞も変だが、この靄には小児の呼吸みたやうなものがある、恐らくそれは美の蒸発気であらう。
御覧なさい、今四月の大地は波立たないこの靄に包まれて、私共は云はば夢の海底に潜つてゐるやうなものだ。ああ、この海底生活は喜ばしい、ここから私共は浮き上らないやうにしたいものだ。
(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)
野口米次郎
1875 - 1947
野口米次郎の詩 再興活動 No.005