常夏の国
ここは黄色の午後の国、
だるい影のやうな甘い国、
赤唇の平和がその顔に溢れ、
平和は太陽の光と愛に栄える。
ああ諧音と香気はやはらかに
墓場に眠る人々へ降り、
再び彼等を生命に蘇生させる………
ああ夢と耳語の国、
幸福と花の国、
悲哀と暗黒は亡び、
亡びた都の悲劇は消える。
美の狂気は流水の胸に満ち、
その軽快な歌の歩みは
目的のない薔薇の無駄話だ。
山あり声あつて私を呼ぶやうに感ずる、
それは古い過去から来て、
私は如何にしてそれが来るかを知らない。
新鮮の気分あり来つて私を嘗(な)めるやうに感ずる、
それは忘れた美人を歌つた詩だ。
(From the Eastern Sea 1903『東海より』より)
野口米次郎
1875 - 1947
野口米次郎の詩 再興活動 No.019