読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2025-01-01から1年間の記事一覧

『鈴木六林男 自選三百句』(春陽堂書店 俳句文庫 1993)

社会性俳句の中心作家。戦争と社会を詠みつづけた作家。俳句形式の性格や要素の虚しさを語りつつ、その形式の追及に賭けるという姿勢に野太さを感じる。 私撰5句 蛇を知らぬ天才といて風の中戦争が通つたあとの牡丹雪わが死後の乗換駅の潦右の眼に左翼左の…

松村竹炉編 『季題別鷹羽狩行句集』(永田書房 1985)

第七句集『七草』までの季題別全句集。その後十七句集まで出ているので、本書は壮年期までの句業ということになる。誉め言葉にはならないかもしれないが、なんとなくすごい。丸みのある技巧的な良句が犇めいているが、味わいがまろやかなために一読しただけ…

『桂信子句集』(立風書房 1983)

『月光抄』『女身』『晩春』『新緑』『初夏』『緑夜』と第七句集『草樹』の一部を収めた生前刊行の全句集的著作。この後『樹影』『花影』『草影』と計10冊の句集を刊行しているが、ピークは『晩春』『新緑』の詠風転換の時期にあるように思う。 私撰15句…

『中村草田男集』(朝日文庫 現代俳句の世界 6 1984)

現代俳句協会の俳句データベースには「中村草田男」で114句登録されていて、本書の中から自選句を選ぶとほとんどが登録済みのもので、この俳人の良句は人によってそれほどブレることはないのだなあと感じた。活動期間は戦前からで、しかも俳句という伝統…

『横山白虹全句集』(沖積社 1986)

全3336句からの15句選※最初の二句がもっとも有名だとおもう ラガー等のそのかちうたのみじかけれ雪霏々と舷梯のぼる眸ぬれたり火事の雲電線ぢぢと燃えさがる電柱に倚れば地底に鳴く蛙葛原の風の中にて猫白し秋あつし売店とざす錠巨大杉山の闇が蛾族を…

ロザリンド・E・クラウス『アヴァンギャルドのオリジナリティ モダニズムの神話』(原著 1985, 訳:谷川渥+小西信之 月曜社 2021)

訳者小西信之のあとがきが作者の立ち位置や本書の成立事情について書かれていて初学者にとっては本書のなかではいちばん明解で有効。それをよんだ後で鎧で固めたようなクラウスの美術批評の本文を読んだほうが良かったと、後から後悔。本篇も二部構成の第一…

淺沼圭司『ゼロからの美学』(勁草書房 2004)

日常性を超えたものに出逢う悦び、衝撃としての美的体験について。 正常と狂気、現世的なものとイデア的なものを対比的に考え、主体と客体どちら側の存在でもなくそのあわいに現れでる仮象としての美的なものを美学の歴史に沿いながら検討している書物。美学…

小林恭二の俳句鑑賞本二冊『この俳句がスゴい!』『これが名句だ!』(角川学芸出版 2012, 2014)

批評であるから当たり前なのではあるが基本的に俳句の下手な俳人に小林恭二は厳しい。10代から俳句に親しみ自然と句が出て来るような俳句ネイティブと20代以降に俳句を始めた晩学の意識的な俳人に階級的な線を引いていて、小林恭二自身は前者に属してい…

佐藤直樹『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』(世界文化社 基礎から身につく「大人の教養」シリーズ 2021)

東京芸術大学美術学部芸術学科教授佐藤直樹による西洋美術入門書。作家同士作品同士の影響関係と差異を軸に展開されていくひと味違った感のある感受性練磨の手引き書。ドイツ、北欧と英国の美術の比重が高いというのも相当個性的。取り上げられている作品自…

吉本隆明『親鸞 決定版』(春秋社 1999)

信と信の崩壊、知と知の崩壊を思考しつづけた親鸞の核心に迫る吉本隆明。傑作だろう。ただ、信という形でしか思考できなかった時代の親鸞の思考を現代と直接結びつけて参考とすることはかなり難しいのではないかと思う。絶対他力のベースに阿弥陀信仰がある…

聞き手:アラン・ヴィルコンドレ『バルテュス、自身を語る』(原著 2001, 訳:鳥取絹子 河出書房新社 2011)

信仰と絵画の伝統技術。ピカソとジャコメッティへの親近感、そしてアルトーとの双子性。ブルトン、バタイユ、抽象画の知識偏重への嫌悪感など。東洋の絵画の精神面にしばしば触れ、石濤の名を二度挙げているのが印象的。リルケとの関係性、兄ピエール・クロ…

夏石番矢の評論集二冊『天才のポエジー』(邑書林 1993)『世界俳句入門』(沖積舎 2003)

『天才のポエジー』は俳句を中心に詩歌全般と音楽、舞踏、小説を論じた夏石番矢第二評論集。切り口が鋭く全体的に興味深い論考が並んでいるが、分量の短い論考のほうが凝縮力と切れがあってより刺激的な場合が多かった。北原白秋と荻原井泉水、北原白秋と高…

夏井いつき句集三冊 伊月集『龍』『梟』『鶴』

プレバトは見ていないがどんな作品を作っているのかちょっと興味がわいたので既刊の句集を三冊読んでみた。かなりポップな作風だった。 『龍』 たまご生みさうな尻して春の鴨 一斉にみえぬもの指す踊かな『梟』 さくらさくら薬師如来の頬たぷたぷ 養命酒みた…

選:小澤實『近現代俳句』(河出文庫 古典新訳コレクション 2025)

本書は池澤夏樹個人編集の日本文学全集29『近現代詩歌』から「俳句」部分を分離独立させた一冊。原句に口語訳と解釈を合わせているのが特徴。選句も感心するが付箋をつけたところは選者の解釈の妙によるところが大きい。 避けがたき寒さに坐りつづけをり …

ベンス・ナナイ『美学入門』(原著 2019, 訳:武田宙也, 人文書院 2025)

著者の主張と思われるものを箇条書きにしてみる。 ・美学は判断ではなく経験に関する学問・美学は真偽ではなく良し悪しを問う・芸術は注意の向け方を変えてくれる人工物 とくに「美学は判断ではなく経験に関する学問」というのは、美学発生以来の傾向に異を…

髙柳克弘『究極の俳句』(中公選書 2021)

髙柳克弘は1980年生まれで21世紀初頭を代表する俳人の一人、早稲田大学講師。 本書の基本主張は、俳句は伝統的な文芸ではあるが本来的には自由で新しい、そして俳句は言葉の結びつきが生み出す衝撃と感銘を創造していくものである、というもので、そこ…

W・H・オーデン『もうひとつの時代』(原著 1940, 訳:岩崎宗治, 水声社 2025)

真面目で誠実な詩作。ずっしりくる、思想を丹念に埋め込んだ抒情詩。困難のなかでキリスト教的な聖なる愛を謳うモダニズムの詩人。ただオーデンは同性愛者でもあって、その精神性は複雑なうえに繊細。 www.suiseisha.net 【目次 および付箋箇所★】 チェスタ…

クレメント・グリーンバーグ『近代芸術と文化』(原著 1961, 訳:瀬木慎一 紀伊國屋書店 1965)

反装飾の美術批評。 【付箋箇所】15, 25, 34, 37, 45, 47, 58, 59, 79, 90, 99, 106, 109, 117, 131, 154, 160, 174, 180, 182, 188, 201, 224, 228, 234, 256, 259, 280, 283, 302, 315, 318 クレメント・グリーンバーグ1909 - 1994 ja.wikipedia.org

アントワーヌ・アルノー+ピエール・ニコル『ポール・ロワイヤル論理学』(原著 1965, 1683 第5版, 訳:山田弘明+小沢明也)

17世紀、デカルトやパスカルの先端哲学を融合させた論理学の教科書。真理に関する言説の見本市。 www.h-up.com 【目次】第一講話 この新しい論理学の計画が示される 第二講話 この論理学に対してなされた主要な反論への答弁が含まれる 論理学あるいは思考…

マックス・シュティルナー『唯一者とその所有』上下巻(原著 1845, 訳:片岡啓治, 現代思潮社 1967)

神は、人類は、自ら事柄を無の上に据え、自ら以上の何ものの上にも据えはしなかった。ゆえに、私も同じく、私の事柄を私自らの上に据えよう、神と同じく他のすべてを無とする私の上に、私のすべてである私の上に、唯一者である私の上に。(「私の事柄を、無…

『鈴木大拙全集 第1巻 増補新版』(編:久松真一+山口益+古田紹欽,岩波書店 2000)

鈴木大拙が妙好人とともに生涯にわたって深い関心を寄せていた盤珪に関しての主要論考二篇。 「盤珪の不生禅」は昭和14(1939)年の刊行。盤珪の不生禅をより現代的により哲学的に捉えて読者に提供している。 笑うことが人間のみに許されて、動物にも天人に…

玉城康四郎『禅入門 9 盤珪 -法語・説法-』(講談社 1994)

不生不滅の不生の語ひとつで禅仏教をひろく民衆層にまで説いた不生禅の盤珪和尚の法語・説法録。公案や経典を用いることはほとんどなく、当時の日常的な言語で仏教の核心を説いているところは驚きであり、またたいへん有難いことでもある。 元来妄想は、実体…

久松真一『茶道の哲学』(編:藤吉慈海 , 講談社学術文庫 1987)

『久松真一著作集 第5巻 禅と芸術』でも論じられていた東洋文化の七つの性格を、茶道の世界について説いた論考集。 1.不均斉 ASYMMETRY2.簡素 SIMPLICITY3.枯高 WIZENED AUSTERITY4.自然 NATURALNESS5.幽玄 PROFOUND SUBTLETY6.脱俗 NON-ATTACHM…

永井均『哲おじさんと学くん-世の中では隠されているいちばん大切なことについて』(岩波現代文庫 2021)

世界を拓く私の存在の不思議さにロジカルに厳密に迫ろうとする平易な言葉で書かれた哲学対話篇。哲学者の哲おじさんと悩める学生学くんと禅者の悟じいさんが登場する。学くんは哲おじさんの話をきわめてよく理解する存在であるにもかかわらず、最終的には真…

W・H・オーデン『アキレスの盾』(訳:太田雅孝, 水声社 2025)

オーデンの代表作。特に「聖務日課の祈り」は読み応えあり。訳者解説ではリルケやキルケゴールなどとの関係性に触れられていたが、エリオットと比較しても面白そうだ。 また、わたしたちがこうして夢に彷徨う間にも、わたしたち自身の 不当な扱いを受けた肉…

池田澄子の句集四冊

ユーモアとアイロニーの効いた現代俳句作家。感覚が地上的で無理がないが窮めて鮮明なところに独自性がある。 『いつしか人に生まれて』(みくに書房 1993) 猫の呼気まじりの空気春の暮虎杖や行くつもりなき丘見ゆるむかし初潮にほっとしたっけ梨の花羽化見…

三橋敏雄編『渡辺白泉全句集』(沖積舎 1984)

新興俳句弾圧事件で逮捕されたうちの一人渡辺白泉の全句集。今となっては何が危険思想と見做されたのか分からないくらいの表現なのだが、それがゆえに弾圧に舵を切った時の体制側は怖いということも感じさせる。作風は現代語をわりあい多く使用していること…

現代俳句文庫75『仁平勝句集』(ふらんす堂 2014)

ユーモアの精神があって女性受けもよい粋で少し愁いのある俳人の選句集。 情けとは紙人形に紙の雪大根を煮て人柄が出てしまふ湯船とは沈む船なり神の留守 furansudo.ocnk.net 【目次】『花盗人』抄『東京物語』抄『黄金の街』抄『黄金の街』以後・エッセイ諺…

筑紫磐井『我が時代 -2004~2013-<第1部・第2部>』(実業公報社 2014)

俳句の言葉が切り詰められて片言となり、それが連なって現代詩になっていく過程を記録したような本だ。老いと病いと気鬱とさらには災害があって、俳句が変容している途上なのだろうか。 辛き世の妻のいひなり楽しけれ君知るや 胸傷みつつ批評するを我が家の…

池田澄子句集『月と書く』(朔出版 2023)

自在の境地で書かれた句の数々。老いてもパートナーを失ってもコロナ禍があっても戦争が起こっていても、毒を吐いても全体としてどこか軽やかで明るい作になる。多くの人の憧れとなっていることがよーく分かる。 凍蝶の自愛の翅のたたみよう多分ヨイショと逆…