エッセイ
間違っているかも知れない。古代の体制は雑で、命が軽い。イタリア人ジャーナリストがアカデミズムの制約から離れたところで、荘重で堅苦しい感じを取り除き、世俗的な評価の基準と読み物としての楽しさをベースに書きおこした歴史教養作品であると思いなが…
ウンベルト・エコ最後の著作。2000年から2015年にかけて週刊誌に連載してきたコラムのなかから、アクチュアリティを失っていないテーマをピックアップしたものに、アラン・W・ワッツ『禅の精神』(1959)への注記「禅と西欧」を付して編集刊行したもの。コ…
一九九六年、岩波新書で発犬伝『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』が刊行されて二〇年、柳瀬尚紀訳『ユリシーズ』は完結することなく残されてしまった。発刊当時に読んで、今回二度目の通読となり、また、他のエッセイ、最後の完成訳稿である第十七章「イタ…
世の中には負けてもいいと思える人がかなりいる。別次元の熱狂に身を浸らせている人には、もうアッパレとしかいいようのない没入感で世界を動かしている様子を見せていただくしかない。フェルメールを愛する科学者福岡伸一は全点踏破の旅を敢行するばかりで…
量子力学が簡単に理解できない理由は「量子力学が複素数の世界の力学」(p169)だから、ということを繰り返し論じてくれたところに、本書のいちばんの価値があるのではないかと思った。 【量子力学の要―確率振幅について、『ファインマン物理学』第5巻から…
ネーデルランドの奇想の画家、ヒエロニムス・ボス。全真作20点(+素描数点)。ピンクと青の色彩の組み合わせと、奇妙な形態の生物、植物、建造物は、見るたびにおさまりが悪く、何度も見返して記憶と感覚によく馴染むように努めてはみるものの、見るたび…
詩人吉増剛造の自分語りを同じく詩人の林浩平が聞き手となって文字起こしした一冊。詩人の誕生から、出版時点での最新作『怪物君』までの全体像を見て取ることができる。「疾走詩篇」(『黄金詩篇』収録)などの勢いのある詩を書いていた40歳くらいまでの作…
図書館が再開して、自分では購入して保有してはおけない大型本に接することができるようになった。 「紀元前1億5000万年ころ アリの体内距離計」、「紀元前3000万年ころ 数をかぞえる霊長類」からはじまって、「2007年 例外型単純リー群E8の探求」、「2007年…
科学全般の雑学取得と保有知識のチェックに便利。図をじっと見て、想いにふけなければ1テーマを1分でチェック可能。職業柄最終章の「IT」がいちばんリアルに気になる。 ・遺伝的アルゴリズム・量子コンピュータ・ホログラフィックメモリ・分散コンピューティ…
1632年、オランダ。フェルメールとスピノザが生まれたオランダ、デルフトでもうひとり、光とレンズの世界に没入する人物がいた。アントニ・ファン・レーウェンフック。顕微鏡の父、微生物の発見者。福岡伸一はフェルメールの『地理学者』『天文学者』のモデ…
千頁を超える作品を読み終えた後は、誰かの何かに消化を助けてもらいたくなる。先日ヴィーコの『新しい学』(中公文庫)を読み終えて、落ち着かない気分でいたところで助けてもらったのがこのベケットのジョイス論。『進行中の作品』として語られるのは『フ…
凄腕編集者の松岡正剛は読者の好奇心に火をつけていく技をいくつももっている。やはり一番すごいのは千夜千冊の尖った著作紹介だが、今度の講談社現代新書の日本論も、著者が自身の日本論の集大成と位置づけているだけの良さは十分にある。個人的には第一〇…
日本で編まれたチャペックのエッセイ・コラム集。軽妙でありながら、ゆったり構えていて奥深い味わいのある小品が読める。全28篇。 人生最大の苦痛であるメランコリーは小さな原因に由来する痛みです。英雄的行為を許さないがゆえに最も重症なのです。英雄…