読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

評伝

コレクション日本歌人選045 高重久美『能因』(笠間書院 2012)

名利関係なしの本格的な数寄者、能因。歌に耽溺する人物は歴史上数多くいるとはいえ「能因歌枕」のような後世に大きな影響を与えるほどの著作を持つ歌人はなかなかいない、俗世間から離れ歌枕を訪ね歩く漂白の歌人として、後の西行や芭蕉に大きな影響を与え…

丸谷才一『後鳥羽院 第二版』(筑摩書房 2004, ちくま学芸文庫 2013)

初版は1973年に筑摩書房から刊行された「日本詩人選」の10巻目の『後鳥羽院』で、翌1974年には読売文学賞の評論・伝記賞を受賞している名著で、第二版の第一部部分をなす。それから30年、1978年の『日本文学史早わかり』や1999年の『新々百人一首』など、…

ひろさちや『道元 仏道を生きる』(春秋社 2014)

道元の生涯をたどりながら思想と布教の展開を跡づけるという、いつもながらのひろさちやの語り口で成立している一冊。 ひろさちやが道元を見る時のポイントとなっているのは、貴族が没落し権勢が武家に取って代わられる鎌倉初期の激動の渦中にあった超名門貴…

ハンス・K・レーテル『 KANDINSKY カンディンスキー』(原著 1977, 美術出版社 世界の巨匠シリーズ 千足伸行訳 1980)

カラー図版48点に著者ハンス・K・レーテルによる図版解説と序文がついた大判の画集。油彩だけでなく木版画やリトグラフなどの作品にも目配せがされているカンディンスキーの画業全般の概要を知ることができる一冊。全油彩点数1180点から見れば、参照用の…

堀まどか『野口米次郎と「神秘」なる日本』(和泉書院 2021)

20世紀への転換期にあたる時期、野口米次郎(ヨネ・ノグチ)の詩人・文化人としての前半生と、極東日本の神秘性を期待して無名のノグチを受容していった英米の文化芸術層の様子をコンパクトにまとめあげた興味深い一冊。 世紀末思想、アメリカのフロンティ…

ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー『霊廟-進歩の歴史からの37篇のバラード』(原書 1975, 晶文社 1983)

エンツェンスベルガーの第五詩集全訳。十四世紀から二十世紀までの進歩の過程に名を刻んだ者たち三十七人の肖像を、アイロニカルな視線で詠いながら、二十世紀も終わりに差し掛かろうとしている1975年時点の状況、歴史の積み上げによって生まれている状…

富山県高志の国文学館編『堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤』(集英社新書 2018 著者:池澤夏樹, 吉岡忍, 鹿島茂, 大高保二郎, 宮崎駿)

『方丈記私記』『定家明月記私抄』『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』『別離と邂逅の歌』『堀田善衞詩集 一九四二~一九六六』と堀田善衞の作品を読みすすんできて、次は何を読もうかということと、他の人はどんな風に読んでいるのかを知りたくて手に取った一冊…

上田三四二『西行・実朝・良寛』(角川選書 1979)

『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』に先行すること5年、上田三四二、56歳の時の刊行作品。醇化しまろやかになる前の荒々しく切り込んでいく姿勢が感じられるのは、壮年の心のあり様がでたのであろうか。語りの対象と同じく歌に生きる者の厳しい…

馬場あき子『式子内親王』(紀伊国屋書店 1969, ちくま学芸文庫 1992 )「式子内親王集」を読む ③

深く激しい表現の発露のもとにあるものを、ノイローゼという言葉で表現しているところに、本書が書かれた時代の空気感と馬場あき子40代の激しさのようなものがすこし感じられ、ほんのすこしだけたじろいだりもするのだが、多くは式子内親王の歌を読み込み…

堀田善衛『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社 1998 集英社文庫 2005)

小説。 『箴言録』で有名なラ・ロシュフーコーが残した『回想録』の体裁にならって(単行本p398参照)、ラ・ロシュフーコー公爵フランソワ六世が語り手となり、三人称形式と一人称形式を混ぜ合わせながら、ラ・ロシュフーコー家の歴史と十七世紀フランスを中…

古田亮『高橋由一 日本洋画の父』(中公新書 2012)「鮭」の画家であり且つ「洋画道の志士」である人の評伝

明治初期に初めて日本人として本格的に油彩を受容導入した高橋由一についての人物評伝。著者のあとがきから小説風の体裁をとりたかった意向を感じ取ることができる。章立ても第何話というようになっていて、高橋由一の人物像が感覚的によく伝わる。武士の気…

荒木昭太郎『モンテーニュ 初代エッセイストの問いかけ』(中公新書 2000) 明晰な存在への陶酔

著者70歳での著述。モンテーニュの訳者、研究者としての海外調査旅行、シンポジウム参加などの様子が織り交ぜられてモンテーニュが語られている。どことなく退官記念の記念出版物のような、力の抜けた味わいがある。著者はクラシック音楽にも造詣が深く、…

原二郎『モンテーニュ 『エセー』の魅力』(岩波新書 1980, 特装版 岩波新書・評伝選 1994) 正統的評伝によるモンテーニュの思想入門

現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』…

宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』(岩波新書 2019) 執筆期間20年、総ページ数2400超の『エセー』をゆるくつまんでみませんかという訳者からのお誘い

宮下志朗は『エセー』のあたらい翻訳者。みすず書房の抄訳、白水社の全訳を経ての、岩波新書での導入ガイド。しっかりした分量の引用が多く、解説もしっかりしているので、いいとこどりの名所ツアーに参加しているような気分になる。宮下志朗も親しみやすい…

【中井正一を読む】02. 木下長宏『[増補] 中井正一 新しい「美学」の試み』(平凡社ライブラリー 2002)美を足掛かりにした現実の濁流への抵抗

抵抗者という視点から中井正一を語った一冊。理論的な骨格を描き出した「委員会の論理」(1936)とそれを広範に向けて拡張展開した「美学入門」(1951)を中心に中井の弁証法的唯物論を核に据えた論考を読み解いている。 中井正一が『美学入門』のなかで展開…