読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

政治経済

ジグムント・バウマン『コラテラル・ダメージ グローバル時代の巻き添え被害』(原書2011, 訳書2011)

どのくらいの不安と危機感をもつのが適当なのかわからないときに、少なくとも過剰な自己責任論に押しつぶされないような情報を与えてくれる一冊。 「福祉国家」体制が次第に廃棄され、消滅していく一方、かつて事業活動や市場の自由な競争とその悲惨な結末に…

池上彰+佐藤優『宗教の現在地 資本主義、暴力、生命、国家』(角川新書 2020)

池上彰に情報量でも読解力でも発想力でもまさっている佐藤優という存在はやはりすごい。本書は宗教という専門分野ということもあってより迫力がある。語られている内容はいつもの池上彰と佐藤優なのだが、漆の重ね塗りの仕上げの塗りに出会っているような印…

R.A.ダール『現代政治分析』(原書 初版1963. 5版1991, 訳書1999, 2012)

正統性を得た者の政治的活動コストは安くなる。 政治システムの指導者は、紛争の処理にあたって政府の諸手段を用いるとき、つねにその決定が暴力、刑罰あるいは強制への恐怖からだけではなく、倫理的に見て正しくかつ適切であるという信念からも、広く容認さ…

上村忠男編訳 アントニオ・グラムシ『革命論集』(講談社学術文庫 2017)

一九二六年十一月に国家防衛法違反の容疑で逮捕・収監されるまでの二十四歳から三十六歳までの文章を集めた日本独自のアンソロジー。若きグラムシがファシズムに対抗する思考を練り上げていく軌跡を追うことができる。 ユートピアの本質は、歴史を自由な発展…

片山薫編『グラムシ・セレクション』(平凡社ライブラリー 3刷 2019)

グラムシはイタリア共産党創設者の一人で、ムッソリーニ政権に危険視され投獄された思想家。ロシア革命以後の共産主義を思考し、現在でも思考の原石としてさかんに参照されている。本書は獄中ノートの文章を中心に、テーマごとに再構成したもの。断片を読む…

ロナルド・H・コース『企業・市場・法』(原書1988、訳書1992, 2020)

自然言語で書かれた人文系の研究者の論文は、門外漢の一般読者であっても、読もうと思えば読めてしまう。そして、専門家の間で高い評価を受けていることについても、それって普通じゃないのかな、などと思ってしまう。取引を成立させるには様々な費用がある…

レーニン『帝国主義』(1917)

プルードン、マルクス、レーニンなどによる資本主義に関する研究は、労働者層よりも資本家層の学習により役に立つ。万国の労働者階級が資本主義の不可避性に抗って共闘するよりも、資本主義の必然性の流れに乗って、その流れを加速させるほうに参入するほう…

空間(ラウム)の思想家 カール・シュミット『パルチザンの理論 政治的なものの概念についての中間所見』(1963)

リアル空間のウィルス感染経路は活動自粛要請によって減少している(はず)。その反面、サイバー空間の活動量は増え、こちらのウィルス感染経路は増えている。身を守るという意味では、サイバー空間での活動もより慎重になるべき状況ではある。命にはかかわ…

マルセル・モース「文明 要素と形態」(1930)

身体的な欲求も社会的な欲望も他なるものを取り込みながら同化変容していく。活動領域や交換法則は整備されながら拡大していく。同質化の動きは避けられない。 確実なのは以下のことどもです。現在までの未曽有の相互浸透がもはや定着していること。個々の国…

マルセル・モース「ボリシェヴィズムの社会学的評価」(1924)

『贈与論』のマルセル・モースのもう一つの顔は社会主義の思想家。設立間もないソヴィエトを批判しながら展開されるモースの社会主義の思想は、彼にとっての希望の原理。 結論を述べよう。ロシアであろうとこちら(引用者注:「わたしたちの西欧諸社会」)で…

ピエール=ジョゼフ・プルードン『貧困の哲学』(1846) 平凡社ライブラリー下巻(2014)

アナーキストのプルードンが国家や企業に代わる組織として掲げたのが、アソシエーション(協同組合)。しかし現実の世界ではアソシエーションは必ず企業や国家に敗れる。競争力も権力ももっていないから。しかし、だからといってその理念をなくしてしまうと…

ピエール=ジョゼフ・プルードン『貧困の哲学』(1846) 平凡社ライブラリー上巻(2014)

1809年生まれのプルードンは、島津斉彬、E・A・ポー、ゴーゴリ、リンカーン、ダーウィンと同い年。37歳の時に書かれた『貧困の哲学』は、174年前の著作であるにもかかわらず、訳業が最近のものということも手伝って、今読んでも古さを感じさせない。今新たに…

ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教 「自由」と「平等」をいかに守るか』(原書2013, 訳書2014)

ドゥオーキンもルジャンドルも法学者。各信用体系とその適用についての考察は法学の範疇にあるということが理解できた。 数学の証明や法学の議論も、詩や劇と同様に、不要な詩句や前提を取り除くことによっていっそう美しいものになる。<それはまさにかくあ…

井上智洋『純粋機械化経済 頭脳資本主義と日本の没落』(2019)

一般読者層への啓蒙の書としてよくできている。経済学者が語る人工知能とベーシックインカムについての本。引用された著作を見ると著者の懐の広さを感じる。全488ページと大冊だが、意外と軽やか。 【著作・発言の引用リスト】 ガンディー『真の独立への…

シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』(原書2018, 訳書2019)

エルネスト・ラクラウとの共著『民主主義の革命』もそうだったが、現実政治への提言の書として受け止めるよりも、パワーバランスに関する理論書として読んだ方が面白い。 フロイトが示しているのは、人格が自我の透明性を中心に組織されているのではなく、行…

片山杜秀・佐藤優『平成史』(2018)

片山杜秀が佐藤優と四つに組んで戦わせた対談の記録。今後を生き抜くための処方箋を見出すための平成30年間の読み解き。結論部分で処方箋として出てきたのは教育の立て直しということで、おもに未来を担う人々に向けての環境整備をしていかなくてはならな…

エルネスト・ラクラウ, シャンタル・ムフ『民主主義の革命―ヘゲモニーとポスト・マルクス主義』(1985, 2001, 2012)

グラムシのヘゲモニー(覇権)概念を根幹に据えた政治理論書。言語学・言語哲学を参照して文芸寄りの理論展開をしているところもあり、政治的有効性とは別の面からも、知的に楽しめる一冊。 グラムシについては千葉眞の解説に頼るのが最も明快。 グラムシは…

宇野弘蔵編著『経済学』(1956, 2019)下巻

下巻は、第二部「経済学説の発展」で原理論の基本概念を補充、第三部「日本資本主義の諸問題」で現状分析の一例を提示。 第二部「経済学説の発展」 賃金(貨幣)を得るためには生産過程に入るほかはなく、資本の支配下にあらざるをえない。 奴隷と異なって、…

宇野弘蔵編著『経済学』(1956, 2019)上巻

上巻は宇野三段階論のうち原理論と段階論が展開される。第一部「資本主義の発達と構造」が段階論+原理論、第二部「経済学説の発展」で原理論の基本概念を補充している。 第一部「資本主義の発達と構造」 訓練されて無産者=近代賃金労働者ができる。 自己の…

萱野稔人『リベラリズムの終わり その限界と未来』(2019)

滅入る。リベラリズムの限界を厳密に考察するのは有益なことだとは思うが、リベラリズムがうまく機能しない理由として、再分配されるパイが縮小しているという現実がどうにもならない条件としてあると繰り返し述べられていると、やはり気持ちは沈んでいく。…

佐藤優『国家のエゴ』(2015)

佐藤氏の論考と姜尚中氏によるロングインタビューの二部構成。 Ⅰ いま、戦争を正面から考える ―私が若い読者に伝えたい、いくつかのこと気になったところは、無限や永遠を思考の対象とするには注意が必要であるという指摘。 死者との連帯に成功した思想は著…

仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』(2013)

作品社の現代思想入門講義シリーズ。仲正昌樹は一般向きの教育者としてかなりすぐれていると思う。講義では対象に対しての思い入れが強く出ることはあまりなく、原典の言葉に沿って、適切に語っている印象がある。 シュミットが語る「決断」について シュミ…

佐藤優『君たちが知っておくべきこと ― 未来のエリートとの対話 ― 』(2016, 2019)

灘高生への特別講座の書籍化。エリート同士の交流を覗き見る。 今起きている出来事や人間のものの考え方には大抵、思考の鋳型があるんです。ほとんどはその反復現象だからね。人類がどんな思考の組み立てや論理の組み立てをしてきたのか、その歴史を知らなけ…

宇野弘蔵 『資本論』と社会主義 (1958, 1995)

学問と科学の擁護。厳密さをベースに論考しつづける姿勢に頭が下がる。 著者主張: 要するに『資本論』を原理論とし、それから段階論を経て、社会主義的変革の実践活動に役立つような現状分析にいたるという社会科学に特有な方法を明確に認めるということが…

猪木正道『新版 増補 共産主義の系譜』(1949, 1969, 1984, 2018)

トロツキーとスターリンの対比、資本主義と共産主義の対比、宗教と唯物論の対比などが縦横に語られる第六章「スターリンとスターリン主義」は特に読みごたえがあった。 なるほどソヴェト共産主義は基本的人権を蹂躙しているであろう。しかしそれでは西欧民主…