読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

野口米次郎「芭蕉」(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

芭蕉 風は陽炎の野から吹いて来る。雲の殿堂から吹いて来る、霧で包まれる廊下から吹いて来る、霧で包まれる廊下から吹いて来る。幻の夢の谷から吹いて来る、天と海が溶け合ふ処から吹いて来る。風は悲しみの詩を追ひ廻し、涙の世界へ灰色の歌をうたふ狂人だ…

レナード・コーレン『Wabi-Sabi わびさびを読み解く for Artists, Designers, Poets & Philosophers 』(1994, 2014)

稲越功一の木の写真についてのキャプション。自然を切りとるフレームに対する感性という指摘。 わびさびは、単にある一定の特徴を備えた手つかずの自然のことではない。人は、それに際立った文脈を与え、それを少なくとも「フレームに入れる・構成する」取り…

野口米次郎「寂寞の海」(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

寂寞の海 樹木の影に虚空の色がある、その下を私の「自己」が倦怠の雲のやうに、「どこか」へふはりふはりと動いて往く。 ああ、寂寞の海だ! 私はこの深さ、否な深さのない深さの顔、否な顔のない大きな顔の上を浮かんでゐるやうに覚える。 永久に海岸のな…

野口米次郎の詩

筑摩書房の現代日本文學大系41で野口米次郎の詩を読んだ。目的は鈴木春信の「雪中相合傘」を主題とした詩だったが、残念ながら収録されてはいなかった。また代表的な作品『二重国籍者の詩』も収録されておらず、ネット検索しても詩集がほとんど出回っていな…

別冊宝島2440 田辺昌子監修『肉筆浮世絵 美人画の世界』(2016)

菱川師宣、鳥居清信から歌川国芳、月岡芳年まで22人、82点の作品で浮世絵美人画の世界を紹介。幕末に向かう溪斎英泉以降の19世紀美人画に描かれる流行の面長のつり目顔がどうして流行ったのか? 自分の趣味と違うものに対する興味が湧いた。 文政期(181…

堀江貴文『自分のことだけ考える。 無駄なものにふりまわされないメンタル術』(2018)

信じられる自分とごまかしなく付き合う。 失敗したってそのとき反省して、また自分を信じて真剣にやるだけだ。(「はじめに」p6) 偉い。 www.poplar.co.jp 堀江貴文1970 -

大澤昇平『AI救国論』(2019)

東大史上最年少准教授という肩書をポジティブに強調しながら論が進められる一冊。競争が好きで、大体の競争には勝ち進んできた人なんだなという印象を持った。 今の世界はグローバル資本主義であり、このゲームにおいて金を集められることは、種としての生存…

佐藤優『世界のエリートが学んでいる哲学・宗教の授業』(2018)

筑波大学での講義の書籍化。小峯隆生が聞き手となり対談形式で話が進む。この講義での佐藤優は圧倒的な知識を背景にアクロバティックに話を展開していく。レクチャーしながらも、圧縮された情報で相手の思考を揺さぶっていくようなスタイルには、怖さを感じ…

湯浅信之 編『対訳 ジョン・ダン詩集』(1995)

形而上詩人と呼ばれ聖職者でもあったジョン・ダンの詩の読後感は、精神的な世界の経験したというよりも、世俗的な世界を生きる人間の存在感に触れたという感触が圧倒的に強い。身体の生々しさのようなものがじんわりと残る。 HOLY SONNETS 10聖なるソネット …

エルネスト・ラクラウ, シャンタル・ムフ『民主主義の革命―ヘゲモニーとポスト・マルクス主義』(1985, 2001, 2012)

グラムシのヘゲモニー(覇権)概念を根幹に据えた政治理論書。言語学・言語哲学を参照して文芸寄りの理論展開をしているところもあり、政治的有効性とは別の面からも、知的に楽しめる一冊。 グラムシについては千葉眞の解説に頼るのが最も明快。 グラムシは…

『吉野弘全詩集 増補新版』(2014)

吉野弘の詩は心の向きをやさしく変えてくれる。現実のあたらしい捉え方も教えてくれる。それでいて、固くも重くもない。ステキな重量感のある詩だ。若き日々に労働組合運動に専念していたということもあってか、労働に関する詩がとても魅力的だ。それもプロ…

河野元昭『浮世絵八華1 春信』(1985)

図版七十点と俳諧(美人画)絵本『青楼美人合』全五冊で春信を味わえる一冊。むき卵のようなつるんとした顔立ちの細身の美人が地上のしがらみにとらわれず重さがないようにすっと佇んでいる姿が見るものを夢見心地に誘ってくれる。画題に労働や家事の場面を…

宇野弘蔵編著『経済学』(1956, 2019)下巻

下巻は、第二部「経済学説の発展」で原理論の基本概念を補充、第三部「日本資本主義の諸問題」で現状分析の一例を提示。 第二部「経済学説の発展」 賃金(貨幣)を得るためには生産過程に入るほかはなく、資本の支配下にあらざるをえない。 奴隷と異なって、…

宇野弘蔵編著『経済学』(1956, 2019)上巻

上巻は宇野三段階論のうち原理論と段階論が展開される。第一部「資本主義の発達と構造」が段階論+原理論、第二部「経済学説の発展」で原理論の基本概念を補充している。 第一部「資本主義の発達と構造」 訓練されて無産者=近代賃金労働者ができる。 自己の…

中村俊定校訂『芭蕉七部集』(1966)

独吟ではない連句を読んだことで、俳諧の師匠としての芭蕉の様子が少しうかがえたような気がした。一瞬で情景を変える句の鮮やかさ、発する言葉の切断力が、門人たちとの格の違いを見せている。七部集で出会うことのできる門人のなかでは、精神性の高い丈草…

吉川幸次郎『漱石詩注』(2002)

岩波文庫で読む漱石の漢詩。今回は青年期の作品が印象深く残った。 漫識読書涕涙多暫留山館払愁魔可憐一片功名念亦被雲烟抹殺過 漫りに読書を識りて涕涙多し暫く山館に留まりて愁魔を払う憐れむ可し一片功名の念亦た雲烟の被に抹殺過さる 帰途口号のうち一首…

加藤郁乎編『芥川龍之介俳句集』(2010)

俳句1158句に数点の連句・川柳作品を収録。芥川の俳句は漱石の漢詩のようには精神のバランスをとるように働いてはいなかったようで、死に近づくと制作数も少なくなっている。残念な気がする。 130 山椒魚動かで水の春寒き222 炎天や行路病者に蠅群るゝ235 牡…

東直子『青卵』(2001, 2019)

誘惑しないセイレーンがひとりつぶやくような歌。ひとたび歌の世界に入ってしまうと、静かなさみしい世界に身動きとれずに置き去りにされてしまうようで、心が弱っているときには少し危険。作者は歌いおえてしまっているが、それに応じることはなかなかむず…

福岡伸一『世界は分けてもわからない』(2009)

「世界は分けてもわからない」といえるには、分けて考えてきた蓄積を知っていることも重要で、その上で、零れてしまうものにも感度を高くしなくてはならない。 生命現象において、全体は、部分の総和以上の何ものかである。この魅力的なテーゼを、あまりにも…

吉藤オリィ『サイボーグ時代 リアルとネットが融合する世界でやりたいことを実現する人生の戦略』(2019)

3年半の引きこもり生活の後、「人間の孤独を解消する」ことをミッションに、新しい技術の開発を推進する技術者・起業家の一冊。技術は身体の延長で、この世界にある困難や不自由を解消するための道具である。それだから、困難や不自由を解消したり、心地よく…

ショウペンハウエル『読書について』(1851, 1960, 1983)

下手の考え休むに似たりという言葉もあるので、今年も人の助けは借りるようにする。時に休んで、手持ちの乏しさを確認しながら。 机に向かって読むことならば日常茶飯事である。だがさらに考えるとなるとまったく別である。すなわち思想と人間とは同じような…

山下一海『芭蕉と蕪村 ―俳聖に注ぐ蕪村の眼差し』(1991)

句に即して語られる芭蕉と蕪村の違い。 象潟や雨に西施がねぶの花 芭蕉石山や志賀登らるる朧月 蕪村 芭蕉の象潟の句の中の時間と蕪村の句に見られる時間が、かなり違ったものであることは明らかであろう。芭蕉の句の時間が、作られた事情と題材によって、複…