読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

西洋絵画

著・監修:宮下規久朗『カラヴァッジョ原寸美術館 100% CARAVAGGIO!』(小学館 2021)30×21cm

「原寸美術館」シリーズの第7弾。カラヴァッジョの代表的作品30点を、原寸含むカラー図版とカラヴァッジョを専門とする美術史家宮下規久朗の解説で案内する。原寸や通常の画集よりも縮尺の比率が大きい図版で見ると、カラヴァッジョの油彩の技術の高さと…

宮下規久朗『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会 2004)

『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』は美術史家宮下規久朗の主著で、第27回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)と第10回地中海学会ヘレンド賞を受賞した会心の作であり出世作でもある。 宮下規久朗は、修士課程修了後、いったんは大学を出て、美術館で学芸…

ミア・チノッティ『カラヴァッジオ 生涯と全作品』(原著 1991, 森田義之訳 岩波書店 1993)34×28cm

カラヴァッジオ研究の権威ミア・チノッティの学術書『ミケランジェロ・メリージ,通称カラヴァッジオ:全作品』(1983)を一般向けに平易に書き直し再構成されたもの。年代順にカラヴァッジオの生涯と作品を追っていく堅実な作家論であり画集でもある。カラー…

ハンス・ベルメール(1902-1975)の作品集 三冊

頽廃美。20世紀の戦争への怒りを込めた攻撃的な作品群は多くのシュルレアリストたちに受け入れられ、日本では1965年以降の澁澤龍彦の紹介によって広く知られるところとなったハンス・ベルメールは、20世紀ドイツの人形作家かつ写真家であり、画家と…

ハンス・フィッシャー『メルヘンビルダー フィッシャーが描いたグリムの昔話』(佐々梨代子+野村泫訳 こぐま社 2013)

バウハウスで教鞭をとっていたパウル・クレーであるが、弟子を探そうとするとハンス・フィッシャーくらいしか出てこない。 画家というよりも絵本作家で、クレーの作品や教えからどのような影響があるのか、グリムの童話一作を一枚の絵の中に描く手法(一枚絵…

イアン・ターピン『エルンスト 新装版 <アート・ライブラリー>シリーズ』(原著 1993, 新関公子訳 西村書店 2012)A4変型判 297mm×232mm

カラー図版48点、モノクローム挿図33点。1作品ごとに解説を見開きで配してあるために、参照していると考えられる先行作品との関連や、採用されているエルンストが開発した多様な表現技法の数々についての焦点化が非常にわかりやすい。 河出書房新社刊行…

サラーヌ・アレクサンドリアン『マックス・エルンスト 増補新版(シュルレアリスムと画家叢書5 骰子の7の目)』(原著 1971, 大岡信訳 河出書房新社 1973, 2006 )

シリーズものにはかなり当たりはずれがあって、本シリーズ、河出書房新社の「骰子の7の目 シュルレアリスムと画家叢書 全6巻」はかなりの当たり。画家の全画業をまんべんなくピックアップしながら、図版として選択されている作品は代表作と注目作両方に目…

小出由紀子編著『ヘンリー・ダーガー 非現実を生きる』(平凡社 コロナ・ブックス)

貧困と自閉的な精神的障害のなかで生前誰にも見せることなく孤独に創造の世界に過ごしたヘンリー・ダーガー。死後にダーガーの部屋に残されていた原稿と画集を大家であるネイサン・ラーナーが見つけ、芸術的価値を感じて長年保存、美術関係者や研究者への普…

マックス・エルンスト『慈善週間 または七大元素』(原著 1934, 巖谷國士訳 河出文庫 1997, 河出書房新社 1977)

『百頭女』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』に次ぐコラージュ・ロマン三部作の最終巻。小説と銘打ちながら、章ごとの冒頭にエピグラフとして引かれる他者の文章以外には、エルンストがつけた章題のほかに文章が全くない徹底的で斬新な一冊。2…

パウル・クレー『教育スケッチブック 新装版バウハウス叢書2 』(原著 1925, 利光功訳 中央公論美術出版社 2019)

ヴァイマール・バウハウスでの1921-22年に行った形態論の授業のエッセンスを編集し刊行した実践的理論書。『造形思考』や『無限の造形』にくらべるとコンパクトで、メモ程度の文章に最低限のスケッチをつけポイントのみを浮かび上がらせた簡潔な手引書の印象…

パウル・クレー『無限の造形』(ユルグ・シュピラー編 原著 1970, 南原実訳 新潮社 1981 )

『造形思考』に並ぶパウル・クレーの理論的著作。バウハウスにおけるクレーの講義録やメモをまとめ、関連する作品の図版をあわせて著作化したもの。構成は『造形思考』よりも荒く、断片性が強いのだが、情報量も、創作や観賞に関する示唆も、本作のほうが多…

ダグラス・ホール『クレー 新装版 <アート・ライブラリー>シリーズ』(原著 1992, 前田富士男訳 西村書店 2012)A4変型判 297mm×232mm

カラー図版48点それぞれにダグラス・ホールの詩的かつ分析的で要を得た解説と、モノクロームの挿図32点、クレーの生涯を描きだしている巻頭エッセイからなる画集。 西村書店の<アート・ライブラリー>シリーズは、比較的多くの作品を高解像度で収録してい…

日本パウル・クレー協会編『クレー ART BOX ー線と色彩ー』(講談社 2006)

スイスの首都ベルンに2005年にオープンした「パウル・クレー・センター」の開館記念のコンパクトな画集。 版型はA24取で140×148mm。 収録作品は138点で、全部がカラー図版(デッサンはもともと白黒だがカラー写真による掲載)。 孫でパウル・クレー財団…

平松洋解説 新人物往来社編『ギュスターヴ・モローの世界』(新人物往来社 2012)

A5判159ページにモローの代表的作品145点をオールカラーで収めた手軽だが充実した作品集。解説文は章ごとにわずかな分量を占めるに過ぎないが、要点を押さえてギュスターヴ・モローの人物像と作品傾向を伝えているために、ためになる。アカデミック…

パナソニック汐留ミュージアム監修 ジャクリーヌ・マンク編『マティスとルオー 友情の手紙』(原著 2013, 日本再編集版 みすず書房 2017)

マティスとルオーの出会いは早く1893年パリ国立美術学校のギュスターヴ・モローの教室でのことであった。出会った当初はあまり交流がなかったようだが、その後、サロン・ドートンヌでの守旧派に対しての共闘を経た後、マティスの息子のピエールが画商と…

二つのジョルジュ・ルオー版画展のカタログ

1.ジョルジュ・ルオー版画展 ―暴かれた罪と苦悩― 1989年 町田市立国際版画美術館 高木幸枝+箕輪裕 184点※『ユビュおやじの再生』『ミセレーレ』『サーカス』『悪の華のために版刻された14図』『流れる星のサーカス』『受難』『回想録』『グロテ…

ベルナール・ドリヴァル+イザベル・ルオー『ルオー全絵画』(原著 1988, 柳宗玄+高野禎子訳 岩波書店 1990)

ジョルジュ・ルオーの全絵画の目録。掲載作品数全2568点。装飾美術学校に通っていた1885年の10代の素描から、1956年85歳での油彩作品までを、時代ごとテーマごとに分けて網羅した大型本。全二冊、総ページ数670ページ。売価88000円…

柳宗玄『ルオー キリスト聖画集』( 学研:株式会社学習研究社 1987, サイズ 43 X 31cm )

出会いというものは運命だから、後々の自分への影響を考えて自由に選択できるものとは考えていないほうがいいが、仮に画家ジョルジュ・ルオーの作品を意識的に系統的に見てみようとするならば、かなり期待を裏切られずに鑑賞できる優秀な作品集。 日本独自の…

ベルナール・ジュルシェ『ジョルジュ・ブラック 絵画の探究から探究の絵画へ』(原著 1988, 北山研二訳 未知谷 2009)

フランスの近代芸術史家による本格的なジョルジュ・ブラック論。日本語版ではページの上部四分の一が図版掲載スペースになっていて、論じている対象や該当の時代を象徴する作品をたくさん取り上げている。図版数全227点。モノクロームでしかも限られたス…

鶴岡善久『アンリ・ミショー 詩と絵画』(沖積舎 1984)

小海永二と同じくアンリ・ミショーの特異な隠者性に魅かれて詩と絵画の世界を探求した詩人鶴岡善久によるアンリ・ミショー論。多くの詩が引かれ、そこにあらわれたイメージについて語られることが多いので、詩と絵画双方を論じていながら、ミショーの絵画の…

ジョルジュ・ブラックの画集6冊

1.美術出版社 世界の巨匠シリーズ『ブラック』 レイモン・コニャ解説 山梨俊夫訳 1980 33×26cm 原色図版48葉、モノクローム図版72点。日本で出ている画集のなかでは、もっとも数多くのブラックの作品に触れられる一冊。原色図版の作品ごとに付けられた…

アンリ・ミショー『ひとのかたち』(平凡社 2007)

東京国立近代美術館で開かれた回顧展にあわせて出版されたアンリ・ミショーの日本独自の詩画集。画業の全期間をカバーした全59点の絵画・デッサンと、その絵が生まれた情況に寄り添うような詩人自身の言葉からなる一冊は、アンリ・ミショーの詩人と画家の…

ジョルジュ・ブラック『昼と夜 ジョルジュ・ブラックの手帖』(原著 1952, 藤田博史訳 青土社 1993)と新潮美術文庫43串田孫一解説『ブラック』(新潮社 1975)

ブラックの『昼と夜』は、1917年から1952年まで、画家35歳から70歳まで折に触れて手帳に書かれたアフォリズム176篇を集めて書籍としてまとめられたもの。 ブラックは祖父の代からの建築塗装業を営む家系に生まれ、15歳で日中学校に通う傍ら…

企画・編集 小柳玲子『夢人館8 リチャード・ダット』(岩崎美術社 1993)

1842年、雇われ画家として中東を旅行していた25歳のリチャード・ダットは、猛暑の中で仕事をし過ぎて日射病となるとともに、その後殺人をおこすまでになる精神病に囚われはじめた。自分はエジプトの神、オシリスの使者であり、悪魔に常に付け狙われて…

リチャード・ダッドのウィキペディアの記事からクィーンの「フェリー・フェラーの神技」のミュージックビデオを見てびっくりしたことの記録 オクタビオパスの『大いなる文法学者の猿』をきっかけに

エンドレス・リピートできるヤバいミュージックビデオ。 再生一回2分47秒(167秒)に込められたヨーロッパ文化の精髄。 フレディ・マーキュリーの天才が発掘し変奏させたイギリスの文化の奥深さに圧倒される。 www.youtube.com 受容の衝撃の度合いから…

『時を超えるイヴ・クラインの想像力 不確かさと非物質的なるもの』(美術出版社 2022)

金沢21世紀美術館、2022年10月1日~23年3月5日開催の企画展「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」の公式図録。 第二次世界大戦後、核による全世界の滅亡を織り込んだ空虚な時空間に投入された、シンプルだがとても過激なイヴ・…

ミシェル・ビュトール『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』(原著 1975, 内山憲一訳 朝日出版社 2011)と中原祐介責任編集『現代世界の美術 アート・ギャラリー 19 デルヴォー』(集英社 1986)

ビュトールの『ポール・デルヴォーの絵の中の物語』は,『夢の物質』の第二巻『地下二階』に収められた「ヴィーナスの夢」の章を抽出して訳出されたもの。全5巻の長大な作品の中でデルヴォーの絵に触発されて綴られた作品の一部が全体のなかでどのような位…

ミシェル・テヴォー『誤解としての芸術 アール・ブリュットと現代アート』(原著 2017, 杉村昌昭訳 ミネルヴァ書房 2019)

ミシェル・テヴォーはジャン・デュビュッフェが1976年にローザンヌに設立したアール・ブリュット・コレクションの初代館長を26年間にわたって務めた人物。ローザンヌ大学を卒業後、フランス社会科学高等学院に学んだ秀才で、本論考にも見られる視野の…

末永照和『評伝ジャン・デュビュッフェ アール・ブリュットの探究者』(青土社 2012)

芸術の使命は創造的壊乱と個性の本来的な独走表現にあるといった信念のもとに生き活動したジャン・デュビュッフェの肖像を活写した日本オリジナルの評伝。シュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンとも正面切って論争し、自分の主張や感情を曲げず傍若無人…

ジャン・デュビュッフェ『文化は人を窒息させる デュビュッフェ式<反文化宣言>』(原著 1968, 杉村昌昭訳 人文書院 2020)

戦後の20世紀を代表するに足るフランスの異端的芸術家による芸術論であり闘争的宣言書。権威筋による既成の価値観に従順な表現は、有用性を付与されるかわりに、特権的ではあるが支配体制に絡め取られ飼い慣らされてしまっている規格化され抑圧的にはたら…