読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

谷川俊太郎 『バウムクーヘン』

谷川俊太郎バウムクーヘン 『バウムクーヘン』 | ナナロク社 2018 むかしのまじょはもうみんなあのよですでもものがたりはいきのこるあたしたちをこわがらせるために「むかしのしょうじょ」p19 がっこうはもうきまっていることをおしえるわたしはまだきまっ…

長田弘 『一日の終わりの詩集』

長田弘一日の終わりの詩集 www.msz.co.jp 2000 孤独が主題。 明るい孤独でない自由はない「人生の材料」p7 独りでいることができなくてはいけない。「空の下」p39 鷗外は、つねに、孤独だった。けれども、その孤独は、不思議にも明るかったと、言わなくては…

東郷豊治編著『良寛詩集』創元社

東郷豊治編著 良寛詩集創元社1960※1957年の良寛全集版を修正 本文、読み下し文、訳の三部で構成。全詩を十章に分類して配列(ただし法華讃は取り上げられていないようである)。 現代語訳あり分類ありで、とても親しみやすい。 内容: 章 章題 作品番号 一 …

ギリシア悲劇 オレステイア三部作(アイキュロス)+「エレクトラ」(ソポクレス) 脳内上演

時系列に沿うと以下の順に上演される。 〔脳内上演:名前のあるものに配役を割り振って戯曲を読んでみている〕 1.「アガメムノン」 アイキュロス作 物見の男 合唱隊(コロス) 報せの使い クリュタイメストラ(アルゴスの王妃):小泉今日子 タルテュピオ…

ギリシア悲劇 オイディプス テーバイ王家の悲劇四作(ソポクレス テーバイ三部作+アイキュロス『テーバイ攻めの七将』) 脳内上演

時系列に沿うと以下の順に上演される。キャストは脳内上演用(私的チョイス)。 制約ある人間界での自分の責任の取り方は、自裁という形でしか成就できないのかと心ざわめく感があるが、死者それぞれの最期の姿は記憶に留め置くだけの衝撃がある。 死に向き…

ヴェクサシオン 高橋アキとチッコリーニ

近頃ヴェクサシオンをエンドレスで聞いていられるようになったのでメモ。きっかけは高橋アキの演奏。 リモート勤務の際にヴェクサシオン(840回相当量)を聴いていられるか何度か試してみていたが、いつも二時間程度で苦痛を感じて挫折していた。聴いていた…

世阿弥の九位

九位 〔 上三花 〕 妙花風みょうかふう 言語や意識を超越した境位 無心の感、無位の位風の離見こそ、妙花にや有べき 寵深花風こうしんかふう 極めて奥深い境位 高さは限りあり、深さは測るべからず 閑花風かんかふう 柔和な境位 白光清浄なる現色、誠に柔和…

兼本浩祐『なぜ私は一続きの私であるのか ベルクソン・ドゥルーズ・精神病理』

兼本浩祐なぜ私は一続きの私であるのか ベルクソン・ドゥルーズ・精神病理 bookclub.kodansha.co.jp 2018 良書。生の意識から「私」が成立し維持されるメカニズムを検討している。 よく引用・参照されているのは以下の著作や理論。ジル・ドゥルーズ(1925 - 1…

ジャック・ルーボーの極私的東京案内

ジャック・ルーボーの極私的東京案内訳:田中淳一2005, 2011 ジャック・ルーボーはフランスの詩人、数学者、作家。師匠はレーモン・クノー。実験文学集団「ウリポ」のメンバー。日本語は読めないが相当な日本文学マニア。本作に引用、参照される日本の歴史的…

アウエルバッハの『ミメーシス』第1章「オデュッセウスの傷跡」 ホメロスと旧約聖書

エーリッヒ・アウエルバッハ『ミメーシス』 筑摩書房 ミメーシス (上) / E・アウエルバッハ 著, 篠田 一士 著, 川村 二郎 著 1946, 1953(英訳), 1967(筑摩叢書版), 1994(ちくま学芸文庫) ホメロスと旧約聖書とにおける文体と世界観の対比。 相対立…

ウェルギリウス 『アエネーイス』 全十二巻概要 あらすじ

アエネーイスウェルギリウス訳:泉井久之介 www.iwanami.co.jp 全十二巻概要: 巻数 行数 概要:私的な要約、あらすじ 第一巻 756 トロイア陥落後、アエネーアースは七年ものあいだ海上をさまよい、その後、天上の神々の争い・はかりごとのなか、カルターゴ…

アンリ・ミショー詩集

アンリ・ミショー詩集訳:小海永二(小沢書店版+土曜美術社版) ※上記2冊で選択に迷ったら土曜出版社版が質・量ともにお勧め。 【小沢書店版】怠惰には、傲慢にはないいくつかの根拠がある。けれども、人々は怠け者を執拗に攻撃する。彼等が寝ているあいだ…

岩波文庫版 旧約聖書 詩篇

旧約聖書 詩篇 訳:関根正雄 www.iwanami.co.jp 岩波文庫で読む旧約聖書の詩篇150篇。通して読むと旧約の神は明確にイスラエルの神なのだということがわかる(「イスラエルの神、ヤㇵウェは」など)。 人々が求めるのは法の下での安寧。豊穣。迫害と飢えが憎…

ギルガメッシュ叙事詩+イシュタルの冥界下り

ギルガメッシュ叙事詩+イシュタルの冥界下り訳:矢島文雄 筑摩書房 ギルガメシュ叙事詩 / 矢島 文夫 著 【ギルガメッシュ叙事詩】 ギルガメッシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのですあなたの求める生命は見つかることがないでしょう神々が人間を創られ…

呉茂一のホメロス『オデュッセイア』 全二十四書概要と脳内上演キャスト

ホメロス『オデュッセイア』訳:呉茂一 とりあえず通読完了。岩波文庫上下巻。 脳内上演キャスト: アテーネー : 二階堂ふみ ゼウス : 吉田鋼太郎 ヘルメース : 染谷将太 カリュプソー : 戸田恵梨香 テーレマコス : 伊藤健太郎 オデュッセウス : 江口洋介 ペ…

永井均 『存在と時間 哲学探究1』

永井均存在と時間 哲学探究1 books.bunshun.jp 2016 永井均のこの著作は読み手をかなり選ぶ。私は選ばれてはいなかった。 何であるか少しも分からないのは、問題が本質的に類型化を拒絶しているからである。どんな原因から生じたか分からないのは、それゆえ…

須賀敦子詩集 『主よ 一羽の鳩の為に』

須賀敦子詩集 主よ 一羽の鳩の為に www.kawade.co.jp 1959、2018 死後、発見されたノートに書かれていた詩を出版。イタリア留学一年目の一年間だけ書き残された詩。著者30歳。カソリック教徒。祈りの姿勢。 あなたの永劫のことばが声となってこの雨とともに…

ピロストラトス 『英雄が語るトロイア戦争』

ピロストラトス 英雄が語るトロイア戦争 www.heibonsha.co.jp 訳:内田次信 ホメロスとオデュッセウスに対する批判がベース。トロイア戦争の別視点からの対話劇形式による報告。 ホメロスの関心はアキレウスとオデュッセウスにばかりに集中していたので戦の…

永井均 『西田幾多郎 <絶対無>とは何か』

永井均西田幾多郎 <絶対無>とは何か www.nhk-book.co.jp 2006 永井均による西田幾多郎。 西田にとって、言葉は取り去るべき「人工的仮定」にすぎない。P38 感想:取り去るのは極端に難しいと思う。 一般的にいえば、他者(私と同じ種類の他の者)の成立と…

白洲正子 祈りの道

白洲正子 祈りの道編:白洲信哉 www.shinchosha.co.jp 2010 豊富な写真が美しい。白洲正子の鑑識眼にかなった作品は、どれもとげがなく丸みを帯びていて麗しい。日本的な柔らかな繊細さの一番いい部分をコレクションしたのではないかと思わせる。「お能とい…

プリーモ・レーヴィ全詩集 予期せぬ時に

プリーモ・レーヴィ全詩集 予期せぬ時に訳:竹山博英 www.iwanami.co.jp アドルノの「アウシュヴィッツ以降、もう詩は書けない」に対して、プリーモ・レーヴィは「アウシュヴィッツ以降、アウシュヴィッツ以外のことで詩は書けない」と言った。書かざるを得…

高橋睦郎『漢詩百首』

高橋睦郎漢詩百首 漢詩百首|新書|中央公論新社 2007 孔子、荘子から魯迅、毛沢東まで中国旧詩人六十人、聖徳太子、大津皇子から河上肇、鷲巣繁男まで日本の漢詩人四十人で漢詩の歴史を通覧させてくれる。構成としては高橋睦郎による読み下し文、訳、解説の…

中嶋秀朗『ROBOT ロボット ―それは人類の敵か、味方か― 』

中嶋秀朗 ROBOT ロボット ―それは人類の敵か、味方か― ロボット--それは人類の敵か、味方か | 書籍 | ダイヤモンド社 2018 定義も歴史も現状も教えてくれる入門書。 ロボットの定義(JIS B8445:2016)2軸以上がプログラム可能で、一定の自律性を持ち、環境…

大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人

大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人 bookclub.kodansha.co.jp 偉大な読み手二人による対談。批評家(哲学者)と小説家という違いはあれ、読み、それによって書くことを深めていった二人の人間の大きさを改めて体感した。 中野重治のエチカ 1994/…

清川あさみ + 最果タヒ『千年後の百人一首』

清川あさみ + 最果タヒ千年後の百人一首 リトルモアブックス | 『千年後の百人一首』 清川あさみ + 最果タヒ 2017 右側に元歌と清川あさみの絵、左側に最果タヒの訳という構成。後付けには訳とあるが実際は元歌をベースにした最果タヒの企画詩。 22番 文屋…

高橋睦郎 『つい昨日のこと 私のギリシア』

高橋睦郎つい昨日のこと 私のギリシア 思潮社 新刊情報 » 高橋睦郎『つい昨日のことーー私のギリシア』 2018 80歳の最新詩集。いい歳の取り方をされているが、やはり老いと死がテーマとなる事が多い。ソクラテスの死が幾度か取り上げられているのが印象に残…

加島祥造+板橋興宗 『タオと禅』

加島祥造+板橋興宗タオと禅 禅とタオ 「今、ここ」を生きる - 佼成出版社 2012 加島祥造の一番の仕事は老子の英訳本からエッセンスを取り込んだ日本語訳『タオ 老子』で、彼自身の詩『求めない』などにはない尽きない魅力がある。その違いは何であろうかと長…

松尾豊 『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』

松尾豊人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの www.kadokawa.co.jp 2015 正しい情報をしっかりと届けようとする作者の意志が見えて非常に好感が持てる。たくさん売れたこともあり人工知能に関しての日本の基本図書になっているように思…

郡司ペギオ幸夫『いきものとなまものの哲学』

郡司ペギオ幸夫いきものとなまものの哲学 青土社 ||哲学/思想/言語:いきものとなまものの哲学 2014 「いきものとなまものの哲学」というよりも「いきもののなまにえの哲学」という印象をもった。時にゆるゆるで、時にごりごりの文章配合は、一冊の本とし…

長田弘 『最後の詩集』

長田弘最後の詩集 www.msz.co.jp2015 最後の詩集での一番の事業は、詩と生を肯定することであったと思いました。みごとな成功作です。 わたし(たち)のすぐそばに一緒に生きているものたちの殊更ならざる真実の、慕わしさ。それら、物言わぬものたちが日々…