読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本画

門屋秀一『美術で綴るキリスト教と仏教 有の西欧と無の日本』(晃洋書房 2016)キリスト教の宗教画と日本の禅画を比較しながら最終的には西田幾多郎の哲学の核心にせまろうとする著作

美術の棚にあったけれど、著者自身があとがきで書いているように宗教学の本。出版社のサイトにもジャンルは哲学・宗教学と書いてあったので、美術の歴史や技巧や洋の東西の美術的な差異などについての記述を期待していると裏切られる。宗教画や禅画の図版は…

宮下規久朗『モチーフで読む美術史』(ちくま文庫 2013) とりあわせにも著者の魂がこもる一冊。たとえば蝶はジェラール「クピドとプシュケ」応挙「百蝶図」コールテ「セイヨウカリンと蝶」

見開き2ページのコラムにカラー図版2ページの体裁で、66の絵画モチーフについて取り上げた美術書。1000円を切った価格で、ほぼすべての図版がカラーというのはとても贅沢。コラムには絵画モチーフについての基本的な情報と、モチーフにまつわる雑学…

岡崎乾二郎『近代芸術の解析 抽象の力』(亜紀書房 2018)技術で見えてきたものによって変わる人間の認識と作品制作。マティス以後の抽象絵画を中心に

素朴な画家と勝手に思い込んでいた熊谷守一が、同業者からは一目置かれる理論派で当時の最先端美術にも通じ、なおかつ海外の代表的な作家の作品にも通底し且つ質において匹敵するする作品を晩年まで作成し続けていたという指摘に、目を洗われる思いがした。…

山口晃『前に下がる 下を仰ぐ』(英題:Stepping Back to See the Underneath 青幻舎 2015 )現物と複製における圧倒的なサイズ感の違いにしおれる

2015年春、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された個展の公式カタログ兼書籍。 タイトルは日本語のほうが含みがあってよい。他の作品のタイトルには旧字が使われていたりするので、バイリンガルの書籍という体裁をもつ本作品にあっては、翻訳の問題な…

狩野博幸『もっと知りたい 河鍋暁斎 生涯と作品』(東京美術 2013) 蛙と妖怪に心をほぐされる

かわなべきょうさい(1831 - 1889)技術にも発想にも優れた画人。 先日読んだ山口晃の『ヘンな日本美術史』(祥伝社 2012)のなかの「やがてかなしき明治画壇」の章でとりあげられていたので、不遇の人、屈折をもってしまった人かなと予想していたところ、ま…

山口晃『ヘンな日本美術史』(祥伝社 2012) 現代日本の内的必然性に思いをめぐらす

近ごろ気になっている言葉は「内発性」「内的必然性」。ゆるぎない情動にしたがっている人物の濁りのなさと知恵の深さには、たとえ同意するまでにはいたらなくても、心をゆさぶる強さがある。 山口晃『ヘンな日本美術史』。これは前にも触れたことがある日本…

岡倉天心『泰東巧藝史』(1910)

「泰東巧藝史」は岡倉天心が明治四十三年に東京帝国大学で行った講義の講義録。岡倉天心最後の体系的な美術史の取り組みとなった。諸外国に向けて「アジアは一つ」と発した岡倉天心の視点は、国内美術を見る時にも同様に働き、アジア全体の動向から見るとい…

岡倉天心『日本美術史』(1890~1892)

「日本美術史」は岡倉天心が明治二十三年から二十五年にかけて東京美術学校で行った講義の記録。「邦人の講述せる最初の美術史」とされ、日本人による日本美術史研究がここから始まった。現在の視点からあれこれ思うよりも、端緒に立った者の風景に少し立ち…

永田生慈『もっと知りたい葛飾北斎 生涯と作品』改訂版(2019)

画狂老人卍、葛飾北斎、享年90。75歳の時に書いた、絵本「富嶽百景」初編の跋文がいかしている。 己(おのれ)六才より物の形状(かたち)を写(うつす)の癖(へき)ありて 半百の此(ころ)より数々(しばしば)画図を顕(あらわ)すといえども七十年…

永田生慈『浮世絵八華5 北斎』(1984)

図版63点に狂歌絵本『隅田川両岸一覧』と『潮来絶句集』が完本収録されている。三十代半ばで勝川派を去ったのちの壮年から老年にかけてのとどまることを知らない画業の営みはまさに圧巻。七十歳になって傾注した錦絵の「富嶽三十六景」をへて、七十五歳ご…

菊池庸介「歌麿『画本虫撰』『百千鳥狂歌合』『潮干のつと』」(2018)

歌麿の狂歌絵本三部作を選書で気軽に鑑賞できる一冊。鮮やかな図版がうれしい。残念なのは、選書ということもあって見開き180度全開にして見れないところ。まあ、やろうと思えば見れるのだろうけれど本が傷んでしまいそうでこわい。 bookclub.kodansha.co…

吉田漱『浮世絵八華3 歌麿』(1984)

図版57点に狂歌絵本三部作『潮干のつと』『百千鳥』『画本虫撰』が完本収録されている。贅沢。歌麿の狂歌絵本は伊藤若冲の画業を知ったときのような高揚感をまた味あわせてくれた。江戸絵画の世界は深い。時間をかけて探索するに値する世界が、また目の前…

『歌麿』 (とんぼの本, 1991)

摺りの技術がよく紹介されているような印象を持った。 (雲母摺は)宝暦十二年(1762)、勝間龍水が、部分的にではあるが『海の幸』に用いたのが最初。その後二十数年を経た寛政元年(1789)、歌麿が初めて雲母摺を大首絵の地塗りに登用した。以来、この技術…

太田記念美術館監修、日野原健司解説『ようこそ浮世絵の世界へ An Introduction to Ukiyo-e, in English and Japanese』(2015)

図版の数は比較的少ない感じがするが、少ないなかで絵師の魅力を最大限に伝えている。選択の妙が味わえる。特に喜多川歌麿の繊細な線の良さが感じられる一冊となっているように思えた。「富本豊ひな」「歌撰恋之部 物思恋」「逢身八景 お半長右衛門の楽顔」…

深光富士男『面白いほどよくわかる 浮世絵入門』(2019)

絵師だけではなく彫師、摺師の卓越した技術をやさしく教えてくれる一冊。紹介だけでなく消しゴム版画で実践に誘うところも魅力的。制作過程の紹介から簡易体験までの一連の流れをまとめあげた24ページから47ページまでがこの作品の味わいどころ。そこを…

別冊宝島2440 田辺昌子監修『肉筆浮世絵 美人画の世界』(2016)

菱川師宣、鳥居清信から歌川国芳、月岡芳年まで22人、82点の作品で浮世絵美人画の世界を紹介。幕末に向かう溪斎英泉以降の19世紀美人画に描かれる流行の面長のつり目顔がどうして流行ったのか? 自分の趣味と違うものに対する興味が湧いた。 文政期(181…

河野元昭『浮世絵八華1 春信』(1985)

図版七十点と俳諧(美人画)絵本『青楼美人合』全五冊で春信を味わえる一冊。むき卵のようなつるんとした顔立ちの細身の美人が地上のしがらみにとらわれず重さがないようにすっと佇んでいる姿が見るものを夢見心地に誘ってくれる。画題に労働や家事の場面を…

雲英末雄『芭蕉の孤高 蕪村の自在 ― ひとすじの思念と多彩な表象』(2005)

題名のとおり芭蕉と蕪村を対比させて描き出している一冊。 芭蕉の「高く心を悟りて俗に帰るべし」(『三冊子』)は、「風雅の誠」などの理想を高くもって、日常卑近なものにあたることを説いたものである。一方、蕪村は日常卑近な俗を用いながら、それを超越…

藤田真一『蕪村』(2000)

蕪村の味読を勧める岩波新書の一冊。ゆっくりと、古典文芸にも目を向けながら、蕪村の句に親しみましょうという誘いがある。 白梅や誰が昔より垣の外 この句は、すべて和歌ことばからできている。俳諧的語彙(俳言 はいごん)が皆無で、和歌的表現で尽くされ…

雲英末雄 監修『カラー版 芭蕉、蕪村、一茶の世界 近世俳諧、俳画の美』(2007)

300点の図版と解説文で近世俳諧を紹介。句の内容だけではなく、俳画や各俳諧師の書跡も含めて総合的に賞味されてきたのが俳諧の世界なのだなということがわかる。蕪村の文人画はこれまでにもみる機会があったが、芭蕉の書や絵を意識してみたことはなかった。…

府中市美術館編『歌川国芳 ― 奇と笑いの木版画』(2015)

2010年春、府中市美術館で開催された展覧会の図録を再編集した書籍。収録図版212点。国芳といえばまず猫だが、人間の顔をした魚介系の作品(34,64など)も笑えて楽しい( ´∀` )。 古くから日本の絵は繊細であったが、それは、対象の再現とはまた別なものだっ…

府中市美術館編『かわいい江戸絵画 Cute Edo Paintings』(2013)

「応挙の子犬」と「国芳の猫」を柱に江戸期に開花したかわいい絵を紹介。一般的な美術本ではなかなか見られない作品がたくさん取り上げられていて、楽しく眺められる一冊。若冲の新発見作品も収録されていてお得。2013年春、府中市美術館で開催された展覧会…

安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』(2005, 2015)

2005年刊行の『すぐわかる画家別近世日本絵画の見かた』を解題改訂したもの。見開き二頁で一人分、四十八人の絵師を紹介。今回は田中一村のことを思いつつ読んでいたので、文人画についての情報が参考になった。 文人画は元来、実景を写すリアルな写実よりも…

守屋正彦『すぐわかる日本の絵画 【改訂版】』(2012)

大人の日本画入門教科書。コンパクトに良くまとまっているという印象をもった。 日本絵画は余白が多い。背景や添え物を入れることを嫌い、単純化を志向する。余白は私たちにとって必要な「間(ま)」であり、空間そのものに意味があるのである。このことは切…

島尾新監修『すぐわかる水墨画の見かた』(2005)

初心者向けに語られた水墨の大事な特徴。 「描かれたもの」と「墨」とのあいだを、見る人が行きつ戻りつするのが水墨の特徴である(「水墨画の主題(1)山水 風景画を超えた世界」p90) いまはあまり表舞台に登場することのない水墨画の作品。この水墨画の…

大矢鞆音『もっと知りたい田中一村 生涯と作品』(2010)

「日本のゴーギャン」などとも呼ばれる田中一村だが、どちらかというと「日本のアンリ・ルソー」といった方が私にはしっくりくる。理由は画風。技術のある日本画のアンリ・ルソー。著者で日本画家の大矢鞆音は「南の琳派」という呼び方をしていて、こちらの…

金子信久『もっと知りたい長沢蘆雪 生涯と作品』(2014)

蘆雪メインだが応挙への言及も多く、師弟が切りひらいた「かわいさ」の世界が強調されている。 昨今、日本美術の中の「かわいいもの」に魅了される人たちが増えている。これもまた、重厚さや技巧、高邁な理念、あるいは「外国でうけるかどうか」が日本美術の…

岡田秀之『かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪』(2017)

豊富な画題に技法。楽しんで描いているのが伝わってくるような作品の数々。酒席で指や爪で即興で描いた画など、画いている時間を思うとうらやましいかぎりである。 芦雪は純粋に絵を描くことが好きで、つねに新しい表現や技法を学び続けようとした意欲にあふ…

岡田秀之『いちからわかる円山応挙』(2019)

写生の画家といわれる円山応挙は、たんにものを見て描くということをはじめた人ではなかった。 「秘聞録」には、いかに現実のように見えるかを追求している言葉もある。一、応挙云、鹿ハ馬ニテ画故不宜、羊ニテ可画云々、仁山ノ鹿宜云々一、円山云、人物手足…

小松茂美『国宝 平家納経 全三十三巻の美と謎』(2005, 2012)

『図説 平家納経』(2005)の新装版。各巻の表紙、見返し、軸を図版として紹介してくれている。軸の豪華さも味わえて平家納経にまた別の角度から接することができた。本書を手に取った目的は俵屋宗達が手掛けた江戸の補修作業(1602)について詳しい情報が得ら…