日本画
美術の棚にあったけれど、著者自身があとがきで書いているように宗教学の本。出版社のサイトにもジャンルは哲学・宗教学と書いてあったので、美術の歴史や技巧や洋の東西の美術的な差異などについての記述を期待していると裏切られる。宗教画や禅画の図版は…
見開き2ページのコラムにカラー図版2ページの体裁で、66の絵画モチーフについて取り上げた美術書。1000円を切った価格で、ほぼすべての図版がカラーというのはとても贅沢。コラムには絵画モチーフについての基本的な情報と、モチーフにまつわる雑学…
素朴な画家と勝手に思い込んでいた熊谷守一が、同業者からは一目置かれる理論派で当時の最先端美術にも通じ、なおかつ海外の代表的な作家の作品にも通底し且つ質において匹敵するする作品を晩年まで作成し続けていたという指摘に、目を洗われる思いがした。…
2015年春、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された個展の公式カタログ兼書籍。 タイトルは日本語のほうが含みがあってよい。他の作品のタイトルには旧字が使われていたりするので、バイリンガルの書籍という体裁をもつ本作品にあっては、翻訳の問題な…
かわなべきょうさい(1831 - 1889)技術にも発想にも優れた画人。 先日読んだ山口晃の『ヘンな日本美術史』(祥伝社 2012)のなかの「やがてかなしき明治画壇」の章でとりあげられていたので、不遇の人、屈折をもってしまった人かなと予想していたところ、ま…
近ごろ気になっている言葉は「内発性」「内的必然性」。ゆるぎない情動にしたがっている人物の濁りのなさと知恵の深さには、たとえ同意するまでにはいたらなくても、心をゆさぶる強さがある。 山口晃『ヘンな日本美術史』。これは前にも触れたことがある日本…
「泰東巧藝史」は岡倉天心が明治四十三年に東京帝国大学で行った講義の講義録。岡倉天心最後の体系的な美術史の取り組みとなった。諸外国に向けて「アジアは一つ」と発した岡倉天心の視点は、国内美術を見る時にも同様に働き、アジア全体の動向から見るとい…
「日本美術史」は岡倉天心が明治二十三年から二十五年にかけて東京美術学校で行った講義の記録。「邦人の講述せる最初の美術史」とされ、日本人による日本美術史研究がここから始まった。現在の視点からあれこれ思うよりも、端緒に立った者の風景に少し立ち…
画狂老人卍、葛飾北斎、享年90。75歳の時に書いた、絵本「富嶽百景」初編の跋文がいかしている。 己(おのれ)六才より物の形状(かたち)を写(うつす)の癖(へき)ありて 半百の此(ころ)より数々(しばしば)画図を顕(あらわ)すといえども七十年…
図版63点に狂歌絵本『隅田川両岸一覧』と『潮来絶句集』が完本収録されている。三十代半ばで勝川派を去ったのちの壮年から老年にかけてのとどまることを知らない画業の営みはまさに圧巻。七十歳になって傾注した錦絵の「富嶽三十六景」をへて、七十五歳ご…
歌麿の狂歌絵本三部作を選書で気軽に鑑賞できる一冊。鮮やかな図版がうれしい。残念なのは、選書ということもあって見開き180度全開にして見れないところ。まあ、やろうと思えば見れるのだろうけれど本が傷んでしまいそうでこわい。 bookclub.kodansha.co…
図版57点に狂歌絵本三部作『潮干のつと』『百千鳥』『画本虫撰』が完本収録されている。贅沢。歌麿の狂歌絵本は伊藤若冲の画業を知ったときのような高揚感をまた味あわせてくれた。江戸絵画の世界は深い。時間をかけて探索するに値する世界が、また目の前…
摺りの技術がよく紹介されているような印象を持った。 (雲母摺は)宝暦十二年(1762)、勝間龍水が、部分的にではあるが『海の幸』に用いたのが最初。その後二十数年を経た寛政元年(1789)、歌麿が初めて雲母摺を大首絵の地塗りに登用した。以来、この技術…
図版の数は比較的少ない感じがするが、少ないなかで絵師の魅力を最大限に伝えている。選択の妙が味わえる。特に喜多川歌麿の繊細な線の良さが感じられる一冊となっているように思えた。「富本豊ひな」「歌撰恋之部 物思恋」「逢身八景 お半長右衛門の楽顔」…
絵師だけではなく彫師、摺師の卓越した技術をやさしく教えてくれる一冊。紹介だけでなく消しゴム版画で実践に誘うところも魅力的。制作過程の紹介から簡易体験までの一連の流れをまとめあげた24ページから47ページまでがこの作品の味わいどころ。そこを…
菱川師宣、鳥居清信から歌川国芳、月岡芳年まで22人、82点の作品で浮世絵美人画の世界を紹介。幕末に向かう溪斎英泉以降の19世紀美人画に描かれる流行の面長のつり目顔がどうして流行ったのか? 自分の趣味と違うものに対する興味が湧いた。 文政期(181…
図版七十点と俳諧(美人画)絵本『青楼美人合』全五冊で春信を味わえる一冊。むき卵のようなつるんとした顔立ちの細身の美人が地上のしがらみにとらわれず重さがないようにすっと佇んでいる姿が見るものを夢見心地に誘ってくれる。画題に労働や家事の場面を…
題名のとおり芭蕉と蕪村を対比させて描き出している一冊。 芭蕉の「高く心を悟りて俗に帰るべし」(『三冊子』)は、「風雅の誠」などの理想を高くもって、日常卑近なものにあたることを説いたものである。一方、蕪村は日常卑近な俗を用いながら、それを超越…
蕪村の味読を勧める岩波新書の一冊。ゆっくりと、古典文芸にも目を向けながら、蕪村の句に親しみましょうという誘いがある。 白梅や誰が昔より垣の外 この句は、すべて和歌ことばからできている。俳諧的語彙(俳言 はいごん)が皆無で、和歌的表現で尽くされ…
300点の図版と解説文で近世俳諧を紹介。句の内容だけではなく、俳画や各俳諧師の書跡も含めて総合的に賞味されてきたのが俳諧の世界なのだなということがわかる。蕪村の文人画はこれまでにもみる機会があったが、芭蕉の書や絵を意識してみたことはなかった。…
2010年春、府中市美術館で開催された展覧会の図録を再編集した書籍。収録図版212点。国芳といえばまず猫だが、人間の顔をした魚介系の作品(34,64など)も笑えて楽しい( ´∀` )。 古くから日本の絵は繊細であったが、それは、対象の再現とはまた別なものだっ…
「応挙の子犬」と「国芳の猫」を柱に江戸期に開花したかわいい絵を紹介。一般的な美術本ではなかなか見られない作品がたくさん取り上げられていて、楽しく眺められる一冊。若冲の新発見作品も収録されていてお得。2013年春、府中市美術館で開催された展覧会…
2005年刊行の『すぐわかる画家別近世日本絵画の見かた』を解題改訂したもの。見開き二頁で一人分、四十八人の絵師を紹介。今回は田中一村のことを思いつつ読んでいたので、文人画についての情報が参考になった。 文人画は元来、実景を写すリアルな写実よりも…
大人の日本画入門教科書。コンパクトに良くまとまっているという印象をもった。 日本絵画は余白が多い。背景や添え物を入れることを嫌い、単純化を志向する。余白は私たちにとって必要な「間(ま)」であり、空間そのものに意味があるのである。このことは切…
初心者向けに語られた水墨の大事な特徴。 「描かれたもの」と「墨」とのあいだを、見る人が行きつ戻りつするのが水墨の特徴である(「水墨画の主題(1)山水 風景画を超えた世界」p90) いまはあまり表舞台に登場することのない水墨画の作品。この水墨画の…
「日本のゴーギャン」などとも呼ばれる田中一村だが、どちらかというと「日本のアンリ・ルソー」といった方が私にはしっくりくる。理由は画風。技術のある日本画のアンリ・ルソー。著者で日本画家の大矢鞆音は「南の琳派」という呼び方をしていて、こちらの…
蘆雪メインだが応挙への言及も多く、師弟が切りひらいた「かわいさ」の世界が強調されている。 昨今、日本美術の中の「かわいいもの」に魅了される人たちが増えている。これもまた、重厚さや技巧、高邁な理念、あるいは「外国でうけるかどうか」が日本美術の…
豊富な画題に技法。楽しんで描いているのが伝わってくるような作品の数々。酒席で指や爪で即興で描いた画など、画いている時間を思うとうらやましいかぎりである。 芦雪は純粋に絵を描くことが好きで、つねに新しい表現や技法を学び続けようとした意欲にあふ…
写生の画家といわれる円山応挙は、たんにものを見て描くということをはじめた人ではなかった。 「秘聞録」には、いかに現実のように見えるかを追求している言葉もある。一、応挙云、鹿ハ馬ニテ画故不宜、羊ニテ可画云々、仁山ノ鹿宜云々一、円山云、人物手足…
『図説 平家納経』(2005)の新装版。各巻の表紙、見返し、軸を図版として紹介してくれている。軸の豪華さも味わえて平家納経にまた別の角度から接することができた。本書を手に取った目的は俵屋宗達が手掛けた江戸の補修作業(1602)について詳しい情報が得ら…