読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-01-01から1年間の記事一覧

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】25. 機械的経済学 地球支配が可能だと思うことができた時代と人の発想

永遠回帰を肯定し、目標なしに生を肯定することを価値とする超人が、いつの間にか地球の支配者としての地位につけさせられている。「ヨーロッパのニヒリズム」は1940年に行われた講義。さすがに現代では地球支配ということを表立って表明する人は少数派…

中沢新一『レンマ学』(講談社 2019)とりあえず、この先五年の展開が愉しみ

中沢新一、七〇歳のレンマ学言挙げ。あと十年ぐらいは裾野を拡げる活動と頂を磨き上げる活動に注力していただきたい。難しそうな道なので陰ながら応援!!! 横道に逸れたら、それも中沢新一。私とは明瞭に違った人生を生きている稀有な人物。変わった人なの…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】24. 地球支配 時にでるハイデッガーの地がうかがえるような言葉

超人が地球を支配するという言葉だけピックアップしてくると、どうしても優生思想がちらつくが、奴隷を必要とするような主人がニーチェの超人というわけではないだろう。 ニーチェの歴史解釈における主体性 形而上学についてのニーチェの《道徳的》解釈 闘争…

岡崎乾二郎『近代芸術の解析 抽象の力』(亜紀書房 2018)技術で見えてきたものによって変わる人間の認識と作品制作。マティス以後の抽象絵画を中心に

素朴な画家と勝手に思い込んでいた熊谷守一が、同業者からは一目置かれる理論派で当時の最先端美術にも通じ、なおかつ海外の代表的な作家の作品にも通底し且つ質において匹敵するする作品を晩年まで作成し続けていたという指摘に、目を洗われる思いがした。…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】23. 計算 価値が存在するのは計算がされるところという指摘

価値の計算が何にもとづいておこなわれているかということについては生成の軸一辺倒なのだけれど、果たしてそこに見落としはないのかという疑問は残る。エロスに対するタナトス、生成に対する消滅への衝動といったものを考慮しなくていいものだろうか。 カテ…

ブルーノ・ムナーリ『ファンタジア』(原書 1977 みすず書房 萱野有美訳 2006)発想の方法を教えてくれる楽しい一冊

ブルーノ・ムナーリはイタリアのプロダクト・デザイナー、グラフィック・デザイナー。代表作は「役に立たない機械」。レオ・レオニとウンベルト・エーコが特に親しいお友達。発想を柔らかくしてくれるとともに、これまでの美術作品がよってたった方法論をい…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】22. 価値崩壊 生成の過剰に圧倒される価値

ヨーロッパのニヒリズムについて探求が深められていく。意志の向かう先が絞り込めない状況の根底には、生成するこの世界の過剰がある。 三 ヨーロッパのニヒリズム ニーチェの思索における五つの主要名称 《最高の諸価値の無価値化》としてのニヒリズム ニヒ…

岡田温司『天使とは何か キューピッド、キリスト、悪魔』(中公新書 2016)境界域で活動する天使という中間的な存在

神学的な天使の考察ではなく、文化的表象、イメージとしての天使の位置と歴史的変遷をあつかった一冊。 わたしが強調しようとしたのは、天使の表象が、古来より基本的にずっと、キリスト教と異教、正統と異端との境界線を揺るがしてきた、ということである。…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】21. 逆転 プラトン主義が逆転した後のぐらぐらした不安定な地平

本能だけで生きられる動物的生と、社会的文化的地平で生きられる人間的生の違い。人間的生は社会的なものなので、地平は活動域を広め深めながらも、生息域としての結構を満たすように醸成していかなければならない。 二 同じものの永遠なる回帰と力への意志 …

杉浦康平『文字の美・文字の力』(誠文堂新光社 2008)漢字文化圏の文字に込められた思いにひたる

ビジュアル本でほっこりする。80点で紹介する文字意匠に内在する文化的生活の力。 双喜紋、喜を横に二つ並べた「囍」の文字装飾のおさまりの良さに喜びが呼び起こされる。込められた意味を知るとラーメン用のどんぶりの飾り文字にさえ、どことなく愛おしさ…

シャルル・ステパノフ&ティエリー・ザルコンヌ著、中沢新一監修『シャーマニズム』(原書2011 創元社「知の再発見」双書162 遠藤ゆかり訳 2014)豊かな自然と祝祭を喜ぶ精霊と交信するシャーマンという存在

一神教以外の聖なるものについての情報補給。シベリア、北アジア、中央アジアのシャーマンについての最近の研究の成果を、多くの図版とともに提供してくれる一冊。ソビエト社会主義連邦統治下では抑圧されていた宗教活動と研究が解放されたが故の活動の記録…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】20. 調和 渾沌と渾沌とのバランス

環境という外側世界も渾沌、人間という内側世界も渾沌。渾沌と渾沌とのバランスがとれたところが正義であり、正当であり、是なるもの。バランスのあり方のさまざまな差異の認識を含めてのバランス感覚としての生の感性。受容と開発。 形而上学的に把握された…

佐藤優『「日本」論 東西の”革命児”から考える』(角川書店 2018) 此岸指向 革命を控えるというラディカリズム

スクラップアンドビルドではなくストック活用。新規開発よりも修繕メンテナンス。革新というよりは保守。ユートピアに一挙に飛ばずに目の前のゴミを拾いながら歩いて進む。指摘されなければ知らないルターと日蓮の共通性を学ぶ。 時空を経て、お互いにはコミ…

マルティン・ハイデッガー『有についてのカントのテーゼ』(原書 1961, 1963 理想社ハイデッガー選集20 辻村公一 訳 1972) 超越論的統覚と論理学

大事なことが語られることはなんとなくわかるが、読み取るのが難しい。訳文が旧字旧仮名なので輪をかけて難しくなっている。また今度に備えてメモ。 【カントの『純粋理性批判』の中での注解(§16, B134, Anm.)】 かくして統覚の総合的統一は最高点であり、…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】19. 真理と芸術、持続と生成

ニーチェの思想の中では真の世界と仮象の世界の性格が逆転する、ということが展開される数章。 図式欲求としての実践的欲求 地平形成と遠近法的展望 了解と打算 理性の創作的本質 ニーチェによる認識の働きの《生物学的》解釈 存在の原理としての矛盾律(アリ…

マルティン・ハイデッガー「プラトンの真理論」(原書 1947, 1954 理想社ハイデッガー選集11 木場深定 訳 1961)「洞窟の譬喩」についての考察

自由は正当な要請に従う自由であって、単に無軌道無拘束ということとは異なる。 さてしかし、すでに洞窟の内部においてすら眼を影から火の光の方へ、またその火の光の中で自らを提示する事物の方へ向けることが困難であり、のみならず成功しないとすれば、い…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】18. 芸術 強張っているものをほぐす熱のあるもの

芸術はマッサージみたいなものか。凝った体がなければ別に不要なものだろう。あと、揉み返しにはかなり注意が必要。芸術の適量はたぶん自分しかわからない。たぶん、精神科医でもうまい処方は出て来ない。 《渾沌》の概念 芸術とは何か。それは《咲き匂う身…

ウンベルト・エーコ 編著『美の歴史』(原書 2004, 訳書 東洋書林 2005)西洋美術と美学に関するかなりすぐれた教科書または副読本

本文に匹敵する分量の各時代の美に関わるテキストの引用が贅沢な一冊。全ページカラーの図版も豪華。全439ページ、値段も本体価格8000円、手元に置いて気になったときに眺めることができれば一番いい商品なのだが、田舎の一軒家で隠居暮らしができる…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】17. 認識 実践的要求によって規定され事後的にあらわれる認識

ハイデッガーは有限性や事後性といった人間の制限に関する感度がかなり高い。そこから歴運とか宿命とか運命にもとづいた決断とかの方向に引っ張っていかれることには第二次世界大戦後の世界を生きる人間としてはかなり抵抗があるけれど、人間の規定にあるも…

テレンス・J・セイノフスキー『ディープラーニング革命』(原書 2018 銅谷賢治 監訳 NEWTON PRESS 2019) 生体と機械のなかのアルゴリズム

ディープラーニング研究のパイオニアである著者が、自身と仲間たちの研究活動のエピソードとともに、ディープラーニングの開発の歴史と現在地を紹介する一冊。神経生理学とコンピューターサイエンスの融合しながらの発展の中心を歩んだ人々の姿に憧れを持ち…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】16. 西欧的 近代西欧以外にも根をもつ人間の生の条件についての言及はなし

一読、またドイツ民族の優位性についての言説かと感じたが、ゆっくり読み返してみれば、今回の読みの対象の講義部分は特定民族の優越という主張の色は薄い。「永遠性」を生の眼目に置く西欧的緊張の世界の話をしているということの確認らしい。今や世界中ど…

筑摩世界文学大系3で読むプラトンのソクラテス対話篇7篇 対話相手と訳者の違いで人物の印象が異なるソクラテス

「ソクラテスの弁明」以外の7篇の簡易読書メモ。いくつかの青年相手の対話篇では、ソクラテスのことばの調子が艶めきを秘めている。ホモセクシャルな雰囲気が標準的な古代ギリシア世界で知的対話を通しての秘かな誘惑の実践が描かれているともいえる。愛を…

マルティン・ハイデッガー「真理の本質について」(原書 1943, 1949, 1954 理想社ハイデッガー選集11 木場深定 訳 1961)真理の本質は自由、非真理と非本質は・・・

人間の常態にあっては、真理の本質が安らっているわけではなく、真理の本質に到らない非本質と非真理が支配している。まず大切なのは常態で無茶苦茶しないこと。そのために常態である非本質と非真理の様相を知る必要がある。 【非本質】通常のものに安住する…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】15. 真理 生の諸条件の表現であるところの真理

ニーチェの生物学主義的思索は、生物学という科学の成果としてみるのではなく、生物を科学する根拠をも問う形而上学的思索として捉えよと、ハイデッガーは指摘している。科学に対する形而上学の優位を強調しながらの1939年のニーチェ講義。見極め切り分…

ひのまどか『ブラームス ――人はみな草のごとく――』(リブリオ出版 1985) 「自由に、だが孤独に」を人生のモットーにしたブラームス64年の生涯

長風呂のお供にブラームスのピアノ曲をよく聴いている。一番聴くのはグレン・グールドの輸入盤2枚組ピアノ曲集「Glenn Gould Plays Brahms - 4 Ballades Op.10, 2 Rhapsodies Op.79, 10 Intermezzi」。最近はハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読んでい…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】14. 世界 存在者の全体としての世界と認識としての力への意志

これより『ニーチェ Ⅱ ヨーロッパのニヒリズム』(原書 1939, 1940, 1961 平凡社ライブラリー 1997) 一 認識としての力への意志 形而上学の完成の思索者としてのニーチェ ニーチェのいわゆる《主著》 新たな価値定立の原理としての力への意志 《世界》と言…

カンタベリのアンセルムス『瞑想』(原書1099 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996)悪魔について

中世神学の典籍においても悪魔というものがはっきりと出て来るケースは珍しいものではないかと思いながら読んだ。 人間は悪魔に属するものではなく、人間も悪魔も神のものでした。しかも、悪魔は、正義の熱意からではなく、不義の熱意に燃えて、それも神の命…

カンタベリのアンセルムス『プロスロギオン』(原書1078 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996) 創造主に呼びかける一被造物の位置を考え始めると途方に暮れる

対語録、全二六章。「主なる神よ」「あなたは」という呼びかけによって展開される信仰の言葉。頓呼法で喚起される神はどうしても擬人化され、呼びかけ側と同一の地平に立っていると感覚されるので、ロジックだけ追いかけたいという読書の気分を妨げる。 第二…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】13. 決断と必然 次の瞬間の自分を引受ける正しい自己愛

思惟は基本的には無言語で行われるのではなく、母国語で行われる。私の場合は日本語で、気がついたときからずっと日本語で生きている。 生活の資を得るために各種プログラミング言語とSQL(構造化問い合わせ言語)のお世話にはなっていて、そのコンピュータ…

カンタベリのアンセルムス『モノロギオン』(原書1076 上智大学中世思想研究所 編訳・監修 中世思想原典集成7 前期スコラ学 1996) 創造と無について

聖書を括弧に入れて神について語ったことで画期的な中世の神学書、全八〇章。スピノザの『エチカ』の先行的位置にある作品。ただしこちらで論ぜられているのはキリスト教の神、「三位で一なる神」というところと、散文による自分自身との対話(瞑想、黙想)…