読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

仏教

紀野一義『名僧列伝(二) 良寛・盤珪・鈴木正三・白隠』(文芸春秋 1975, 講談社学術文庫 1999)

著者の好みが鮮明に打ち出されている名僧案内。江戸期の四名の禅僧が著者ならではの視点から描かれているために、各僧のあまり触れられない新鮮な情報も含まれていて、ほかの書物と比べながら多角的に各人物を捉えるきっかけを与えてくれるような、記憶にも…

竹村牧男『唯識・華厳・空海・西田 東洋哲学の精華を読み解く』(青土社 2021)

現在のグローバリゼーションの時代において、異質な他者との共存を考えるための知恵として、古代から営まれてきた東洋哲学の清華を見直していこうという意図をもって書かれた著作。大乗仏教の根幹をなす唯識思想から、華厳の事事無礙法界を経て、空海の曼荼…

加藤精一 編『空海「般若心経秘鍵」』(原著 834, ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2011)

空海の最晩年、入定前年61歳の時の著作。主著『秘密曼荼羅十住心論』や『秘蔵宝鑰』で展開された顕教から密教へと至る仏の教えの階梯を、「般若心経」270字のなかに読み解く、空海の天才的思考が凝集された見事な果実。加藤精一による現代語訳と解説に…

訳: 加藤精一『空海「弁顕密二教論」』(ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2014)

顕教と密教の違いを説く空海の書。仏陀を法身、応身、化身の三身に分けたときに、法身の大日如来が直接説かれた教えを密教、法身大日如来から派生的に現じた応身化身の諸仏が、教える相手によってさまざまに説き分けた教えを顕教とした、空海独自の教論。大…

谷川敏朗『校注 良寛全詩集』(春秋社 2005, 新装版 2014)

谷川敏朗の良寛校注三部作のうちではいちばんの力作。良寛自身も俳句や歌に比べれば、漢詩に傾けた時間やもろもろの思いはもっとも大きいのではないかと考えさせられる一冊。寺子屋や学塾に通った時代から、世俗的世渡りの要求に応えられずに出家したあとの…

全国良寛会 監修 竹村牧男 著『良寛「法華讃」』(春秋社 2019)

良寛には法華経を称えた「法華讃」「法華転」と言われる漢詩作品集が四種あり、本書のもとになっているのは原詩102篇と著語(じゃくご)と言われる短い感想を述べたものと溢れる思いから書き添えられた和歌数篇からなる最大のもの。新潟市所蔵の良寛直筆…

田村圓澄『日本を創った人びと 3 空海 真言密教の求道と実践』(平凡社 1978 編集:日本文化の会)

軽めの内容かと思ったら、本文も掲載図版も文句のつけようがない優れた一般向け専門書的図鑑だった。平凡社刊行だから、別冊太陽もしくはコロナ・ブックスのシリーズを想像していただくと、文章と図版の質と量の水準の高さの程度が知れるかと思う。全82ペ…

入矢義高『良寛詩集』(現代語訳 禅の古典12 講談社 1982)

良寛自筆詩稿「草堂詩集」235首のうち重複を省いた184首と、岩波文庫版『良寛詩集』から47首を追加した全231首の漢詩に、読み下し文と現代語訳、訳注を施した充実の一冊。良寛も愛読した寒山詩についての仕事(岩波書店刊中國詩人選集5『寒山』 …

入矢義高 注『寒山』(岩波書店 中國詩人選集5 1958)

中国江蘇省蘇州市にある臨済宗の寺、寒山寺に伝わる風狂超俗の伝説の僧、寒山拾得のうちのひとり、寒山。 禅画・水墨画に描かれる異形瘋癲の寒山の姿を想い起す人のほうが多いであろうが、そのイメージとはかなり異なる姿が寒山の詩からは読み取れる。 本書…

北川省一『良寛、法華経を説く』(恒文社 1985)

在野の良寛研究家北川省一の著作のうち良寛の法華経研究および法華経信仰を記した漢詩文『法華讃』『法華転』を読み説きながら良寛の法華観を考察した書物。大学に在籍する研究者とは異なり、資料の処理考察における厳密性に関する信頼度についての危うさ、…

梅原猛+柳田聖山『仏教の思想 7 無の探求<中国禅>』(初版 角川書店 1969年, 角川ソフィア文庫 1977年) インド仏教の世界から離れたところの中国禅の世界の概観と日本での受容の歴史

出家の僧侶の高慢を突いた『維摩経』の在家信者維摩居士の正しさを、出家したところの禅僧が日常に還る体で反復改革していこうとするのが、中国禅さらには日本の禅の営みの真にあるものだと確認することを主眼に置いた一冊。 解脱による世間超越を良しとする…

安藤礼二『大拙』(講談社 2018) 神秘から芸術へ

批評家安藤礼二の名前をはじめて意識したのは角川ソフィア文庫の鈴木大拙『華厳の研究』(2020年)の解説。ずいぶんしっかりした紹介をしてくれる人だなと気になって最近複数の作品にあたっていたが、折口信夫研究からの必然的な展開として新仏教家藤無染を…

竹村牧男『良寛の詩と道元禅』(大蔵出版 1978, 新装版 1991)良寛と道元が観た世界の後の世界を観る世界

生きているあいだに確実に超えられない業績を残している人に出会ってしまうのは結構つらい経験ではあるのだが、本を読むということは、そんなつらい経験をあえてもとめているようなところが大きい。 なぜ強いられてもいないのに読んでしまうかというと、これ…

安藤礼二『列島祝祭論』(作品社 2019)

折口信夫の古代学に導かれ日本の祝祭と芸能の展開を追っていく批評作品。「神憑」を聖なる技術としてきた「異類異形」かつ「異能」の者たちは、里の世俗の秩序とは異なる山の聖なる秩序の下で生き、アナーキーかつ神聖なる怪物あるいは霊力を解放する祝祭を…

訳・解説 大角修『全品現代語訳 法華経』(角川ソフィア文庫 2018 ) 「一相」と「存在の一義性」をしばし合わせてみる

妙法蓮華経安楽行品第十四に「一相」という言葉が出てくる。その後注意して法華経後半を読みすすめていたがおそらくここだけに使われている言葉ではないかと思う。 一切諸法 空無所有 無有常住 亦無起滅(中略)観一切法 皆無所有 猶如虚空 無有堅固 不生不…

中央公論社 日本の絵巻20『一遍上人絵伝』(1988年刊 編集・解説 小松茂美 )

踊念仏の一遍(1239~1289)没後十年の1299年、弟子の聖戒が師の言行をとどめ置くために詞書を調え、土佐派系統とみられる絵師の法眼円伊に描かせた全12巻におよぶ伝記作品。人が集まる法話の様子や時衆による踊念仏の集団表現や、それらとともに画か…

高橋敏『白隠 江戸の変革者』(岩波現代全書 2014) 動中の工夫は静中に勝る事百千億倍

禅画と墨蹟の芸術家白隠でもなく、臨済宗の聖僧たる思索家白隠でもなく、寺院経営と著作出版に機敏に立ち回り独自のこだわりも見せる、世俗に深くかかわりをもった人間くさい側面を中心に紹介がなされた白隠の評伝。禅宗史の芳澤勝弘の業績と美術史の山下裕…

本間邦雄『時間とヴァーチャリティー ポール・ヴィリリオと現代のテクノロジー・身体・環境』(書肆心水 2019)

資本主義経済が光速の電磁波活動圏を手にしてから後の世界で、生身の人間がどう対応したらよいのか。まずは現状を確認するためにも、速度の思想家ポール・ヴィリリオに尋ねてみるのが適当だ。本書はヴィリリオ『電脳世界』の訳者でもある著者のヴィリリオ論…

大橋俊雄校注『一遍上人語録 ― 付 播州法語集 ―』(岩波文庫 1985)

遊行の捨聖、一遍智真。 「南無阿弥陀仏 決定往生六十万人」の念仏札を配り歩き、踊念仏を興した鎌倉時代の僧。 輪廻も極楽浄土も信じられない人間であっても、遍満する仏や本来無一物や他力の仏教思想には慰められることがけっこう多い。年をとってきて、自…

上田三四二『西行・実朝・良寛』(角川選書 1979)

『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』に先行すること5年、上田三四二、56歳の時の刊行作品。醇化しまろやかになる前の荒々しく切り込んでいく姿勢が感じられるのは、壮年の心のあり様がでたのであろうか。語りの対象と同じく歌に生きる者の厳しい…

上田三四二『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』(新潮社 1984, 新潮文庫 1996)

世俗を離れて透体にいたるまで純化した人たちの思想と詩想を追う一冊。第36回の読売文学賞(評論・伝記部門)の受賞作であるが、いまは新刊書では手に入らない。 明恵は一個の透体である。彼はあたうかぎり肉体にとおい。もちろん、肉体なくして人間は存在…

足立大進編『禅林句集』(岩波文庫 2009)

室町から江戸にかけて徐々に精練されていった禅語のアンソロジー『禅林句集』から抽出された全3410句からなる禅語導入書。 修行して悟りを得たいなどという思いはさらさらないのだが、気が軽くなるような気の利いた言葉に、あまり苦労することなく出会い…

森政弘『ロボット考学と人間 ―未来のためのロボット工学―』( オーム社 2014 )ロボットと遊びと能動力

森政弘は「ロボットコンテスト」の創始者であり、「不気味の谷現象」の発見者。仏教に関する著作も持ち、たいへん懐が深い。ロボットとの関わり方は非常に日本的な繊細さにあふれており、わき上がる情熱とともに静謐な慈しみのこころが伝わってくる。 日本文…

中沢新一『日本文学の大地』(角川ソフィア文庫 2019, 角川書店 2015)不合理なものの蠢きに感応する批評眼

もとは1990年代後半『新編日本古典文学全集』の月報に連載されたエッセイ。オウム真理教地下鉄サリン事件などの影響で仕事がなくなっていた時期の著述。同時期の作品に『フィロソフィア・ヤポニカ』(2001)がある。神秘主義的でいかがわしいところもある…

筒井紘一『利休聞き書き 「南方録 覚書」全訳注』( 講談社学術文庫 2016, 講談社『すらすら読める南方録』2003 )時を得たもてなしの心と技

モンテーニュ(1533 - 1592)の『エセー』をつまみ食いしているなか、日本の同時代人が気になったので、千利休(1522 - 1591)の語録系の著作を読んでみた。現代から遠く離れた時代の生活感を感じるとともに、茶道などの知らない分野について書かれた古典的…

頼住光子『正法眼蔵入門』(角川ソフィア文庫 2014)分節化した世界からの「脱落と現成」

2005年にNHK出版から刊行され、いまは絶版となってしまっている『道元 自己・時間・世界はどのように成立するのか』の増補改訂版の著作。全128ページの論考が231ページまで分量的にはほぼ倍増され、研究の深まり、論旨の繊細さもずいぶん増したように感じ…

清沢満之(1863-1903)の原稿原文と今村仁司の現代語訳比較サンプル

明治期の清沢満之の文章は今現在でも読めないということはない。特殊用語の注釈が入ってくれていれば特に問題なく読めることは読める。書き手の息遣いのようなものも原文のほうが色濃く感じることもできる。ただ、現代語訳にしてもらえるなら意味内容はとら…

文庫で読む清沢満之(きよざわまんし 1863-1903) 読書資料

清沢満之は真宗大谷派の僧侶。法然、親鸞、蓮如に連なる他力の信仰者。東京大学でフェノロサからヘーゲルやスペンサーを学んだことで、自身の仏教哲学に西洋哲学を取り込んでいる。有限と無限の考察、遍満する仏を説く汎神論、世界理解に対する数学的アプロ…

岩波日本古典文学大系89『五山文學集 江戸漢詩集』(岩波書店 1966 山岸徳平校注)から五山文学の漢詩を読む

五山文学は鎌倉室町期の臨済宗の僧侶たちの手による漢詩の作品。読み下し文をたよりに単に読み通すだけだと、パターン化された憂愁を詠った作品が多くて、悟った僧たちのくせに何をやってるのだろうと感じたりもするのだが、作品を書いた意図としては無聊の…

頼住光子『道元の思想  大乗仏教の真髄を読み解く』(NHKブックス 2011)一切衆生悉有仏性というのに修行が必要なのはなぜか?

修行というのは固着しないほうがよいものを固着させないように揉みほぐすようにする日々の運動、「全体世界」としての仏の場を開示しつづける終りない営みであるということを説いているのが本書の肝ではないかと思う。 道元は「悉有仏性」を「悉有は仏性であ…