哲学
2014年の博士論文「本質と実在 ― スピノザ形而上学の生成とその展開」をベースに編み直された著者初の単著。慶応大学出なのに法政大学出版会というちょっと変わった期待のかけられ方を感じる著者で、あとがきによると、ライプニッツと中世哲学を専門領域とす…
集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほど…
ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したい…
21世紀の哲学界での思想動向を図式的に手際よくまとめている導入書。思弁的実在論、加速主義、新実在論の代表的論者の思考の枠組みが、資本主義と情報技術、機械と科学と数学で、非自然化していっているような現代世界に、どう伍していくかが見られ問われ…
私小説。標準的で規範的なものの抑圧に対するマイノリティ(ホモセクシャル)側からの抵抗と困惑の表明。「仮固定」「偶然性」「意味がない無意味」「無関係性」「分身」「生成変化」など千葉雅也の哲学書で語られている概念が、学生時代(『デッドライン』…
欲動のもとめる対象「対象a」あるいは「小文字の他者」をめぐる本格的考察が展開されることになる起点となったラカンのセミネール。聴講対象者はラカン派の分析家で、セミナールも10年目となると、前提されている知識が多くてなかなか全体像がつかみにくい…
出版間もないのに非常に評判の高い一冊。買おうかどうか迷ったら、ゴシック体で強調しているところをたどって書店店頭で判断すればよいという徹底して初心者に優しいつくりにもなっている。浅田彰の『構造と力』が天使的軽さを目指しながらまだ大天使の大き…
キュニコス派(犬儒派)ディオゲネスから説きおこし、ストア派初期のゼノンから後期のマルクス・アウレリウスまでの哲学をたどる概説書。 自分の力ではどうにもならない外的条件に対してどのように振舞うのが良いかに焦点を当て、意志の力で自己統率し運命に…
パルメニデスやゼノンに連なるエレア派の論理学を学んだであろう「エレアからの客人」を対話の主人に据えたプラトンの後期対話篇2篇。ソクラテスは対話導入部にほんの少し顔を出すだけで、後期プラトンの思想を代弁する「エレアからの客人」が、「分割法(…
感覚を持つ身体を基体として、個体性をもったハビトゥス(習慣)が生まれ、人生がかたちづくられる。ハビトゥスが方向性を生み出しながら、それぞれの生が営まれることを、主に中世の修道院の生活から解き明かしていったエッセイ的論考。中世の精神と生活の…
神学中心の中世哲学を専門的に研究してきたことから見えてきた現代の思想の偏向性を相対化し批判的な視点を提供する八木雄二の近作。大著『天使はなぜ堕落するのか』(2009)で明らかにされた古代から中世、中世から近代への思想の展開の道筋は、分量的には半…
中世哲学の勃興から衰滅までの流れと、時代ごと哲学者ごとの思想内容を、難易度の高そうな部分も含めて、初学者にもじっくり丁寧に伝えてくれる頼れる書物。著者のしっかりした研究の成果がみごとに整理されているうえに、中世哲学を読むときに気を付けてお…
ドゥルーズの内在の哲学とドゥンス・スコトゥスの存在の一義性への傾倒に関心を持ったことで中世哲学関連本を最近よく読んでいる。日本人の研究者で入手しやすいのは八木雄二と山内志朗の著作で、並行して読んだりすると、書き方にも原典の読み方にも違いが…
本書『推移的存在論』は、バディウの主著『存在と出来事』(1988)と『存在と出来事 第二巻 世界の論理』(2006)を繋ぐ位置において書かれた中継点的著作で、『存在と出来事』のエッセンスと『世界の論理』へと展開していく変換点が記されている。訳注解説含め…
哲学者アラン・バディウがいうところの「反哲学」とは、知的な至福の可能性と真理をめぐる思考である哲学の信用を失墜させるような仕方で同定した上で、哲学とは異なった思考の布置の到来であるような「行為」を引き受ける思考のスタイルを指していて、バデ…
仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかに、ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという案内があったので、『花粉』につづいて『散種』も読んでみた。 ノヴァーリスの唱えた聖書に連なる百科全書的な世界で一冊の書物から、マラルメの書物を経由して、…
ドゥルーズとガタリによる最後の共著『哲学とは何か』の詳細な読解。思考の「三大形式」である「哲学」と「科学」と「芸術」を「超越」を拒否する「内在」と「カオス」の概念との関係性からそれぞれ見極めていくスリリングな書物となっている。注を含めて6…
ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかにでてきた案内を読んで、実際にノヴァーリスの『花粉』が収録されている本書を手に取ってみた。 シュレーゲルの反省と否定による無限超出に比べて、ノヴァーリスには…
ドゥンス・スコトゥスを中心に中世スコラ哲学に関する論考が多い哲学者山内志朗が自身のドゥルーズ体験を交えながら、中世スコラ哲学の核心部分を受け継いだ者としてのドゥルーズを描く一冊。どちらかといえばマイナーなたとえによる解説と独特な賛嘆の表現…
自身も小説や戯曲を書くフランス現代思想の重鎮アラン・バディウのベケットへのオマージュ。豊富でこれぞというめざましいベケットの作品からの引用は、バディウの愛あふれる案内によって、輝きと光沢をます。ベケットの灰黒の暗鬱とした絶望的に危機的な状…
身体を離れた霊魂のうち罰をまぬがれ神にまみえることが許された至福者の至福、このキリスト教の世界での至福直観を理論づけるために、身体という「個別」質料に関わる感性と、「普遍」形相に関わる知性を結びつけるものとして、はじめて「直観」という概念…
熱い探究心から出た過激な肯定の書物。「宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人」であることの追求の過程をめざましい17篇の論考を通して提示してくれている。 フーコーやスピノザのようにあたかも宇宙人であるかのごとく〈現在〉を見る異邦人の眼差…
宇宙の理解に数学を用いたピュタゴラスがヨーロッパ哲学の最大の源泉であるという主張に目を洗われた。対話と政治倫理あるいは正義や徳についての議論に重きを置いたソクラテスではなく、数学ベースの真理究明と美的探究に重きを置いた知性と技術優位のピュ…
仲正昌樹、30歳を越えて提出した長大な修士論文をベースにした著作。院試失敗や統一教会への入信脱会など起伏が大きい経歴を経ての著述。自身のこだわりをあまり表面には出してこないが、研究対象に対して妥協することなく調査している姿勢がうかがえて、…
プラトンの後期対話篇に於けるソクラテスは、語り手でも対話者でもなく、もっぱら聴き手の位置にいる、日本の能の構成上でいえばワキの位置に控えながら、全体を無意識的に統括する主宰者の位置にある。主宰者は迎えいれた主賓を称え、主賓の最高の精神活動…
出家の僧侶の高慢を突いた『維摩経』の在家信者維摩居士の正しさを、出家したところの禅僧が日常に還る体で反復改革していこうとするのが、中国禅さらには日本の禅の営みの真にあるものだと確認することを主眼に置いた一冊。 解脱による世間超越を良しとする…
2009年に受理された著者の博士論文『カヴァイエスにおける「操作」と「概念」――数学的経験における構造の弁証論的生成について』をベースに、カヴァイエス『構造と生成Ⅱ 論理学と学知の理論について』での解説と重複する部分を削除の上、加筆改訂した論考。…
パルメニデスを主人公にした対話篇。 年少のソクラテスやアリストテレスに対する思考の準備運動の実践教育らしいが、字面を追うだけで精一杯。文書で読んでいるからまだいいようなものの、話し言葉を耳で聞いて理解し対応するとなると至難の業。 一と多、有…
金沢市の書店「石引パブリック」で2019年に開催された全11回の連続講座「仲正昌樹と考える:哲学JAM」を書籍したもの。三分冊で赤、青、白と分けられている。 仲正昌樹+作品社+連合設計社市谷建築事務所から成る入門講義シリーズとはちょっとテイストが変…
読み終えて、ああ終わっちゃったとさみしさが湧いてきた。読んでいる最中もなんだかさみしいなあと思いながらの読書だった。たぶん、特殊個人的なケースだと思う。 大学で哲学を教える千葉雅也の2017年39歳時の海外学外研究(サバティカル)での交流記、滞在…