哲学
六月末にブックオフで第二巻が欠落していたモンテーニュの『エセー』岩波文庫版に出会い購入。第二巻は「レーモン・スボンの弁護」で、これは白水社の宮下志朗訳で去年読んでいたので、無くても誂え向きといったところ。7月に入って第一巻から読みはじめて…
認識論から解釈学へ、体系的哲学から啓発的哲学へ、真理の発見から会話の継続へ。先行するデューイ、ヴィトゲンシュタイン、ハイデガーの三人の哲学者の思考の歩みに多くを負いながら、ローティが旧来の思考の枠組みを多方面から掘り崩していこうとしている…
リチャード・ローティの政治的信条はブルジョワ・リベラル。立憲民主主義のもとで最大限に自由かつ寛容な社会を実現していこうとする立場。原理主義的な完璧性を目指す急進派に対して、「有限で終息する運命にある」社会政治的なキャンペーンをくりかえすこ…
ローティの教え子でもある冨田恭彦が選出し解題を付けて訳出したローティの後期の論文選集。著者最晩年に自らの生涯を語った「知的自伝」も含まれていて、ローティを読みはじめるにも適した一冊。本論集は、編訳者によって、各論文の核になる部分が解題で引…
真理は発見されるものではなく言語のメタファー機能によって作り出されていくものであるという、ローティのロマン主義的思想を展開した代表作。20世紀の分析哲学と大陸哲学双方に目配せが利いていることによって、逆にアカデミックな印象をあまり感じさせ…
道元の生涯をたどりながら思想と布教の展開を跡づけるという、いつもながらのひろさちやの語り口で成立している一冊。 ひろさちやが道元を見る時のポイントとなっているのは、貴族が没落し権勢が武家に取って代わられる鎌倉初期の激動の渦中にあった超名門貴…
ハンス・ヨーナスは1903年生まれのドイツ系ユダヤ人哲学者。学生時代にはシオニズム運動に参加し、第二次世界大戦時にはイギリス軍に志願しユダヤ旅団に属してナチス・ドイツと戦った。また、戦期にドイツから出国することの叶わなかった母親は、アウシュビ…
著者曰く、『正法眼蔵』は禅の指南書としてよりも哲学書として読むのが好い。本書で扱うのは「現成公案」「弁道話」「生死」「仏性」「有時」「山水経」「洗浄」「諸悪莫作」「菩提薩埵四摂法」「八大人覚」の各巻と、『典座教訓』『普勧座禅儀』。大事なと…
生命が必要としている物質交代の仕組みのうち、殊に動きをもって捕食する必要が出てきた動物の個体の様相を哲学的に分析し、人間にいたっては自己が芽生える個体性と自己以外の外的な世界との隔たりが生命活動の自由を生むと解き明かす。 植物の生命が眠って…
テヘラン出身パリ在住の哲学者による現代絵画論二本。 マネ論「現代芸術の出発」は、バタイユのマネ論を主軸に、油彩技法の革新者であるファン・エイクから、現代絵画をはからずも切り拓いたマネの絵画技法に至る流れを、より俯瞰的に示したエッセイ。マネの…
1955年刊行のマネ論を中心に、バタイユの絵画論を集めた一冊。マネ論のほかは印象主義論、ゴヤ論、ダ・ヴィンチ論が収められている。共通するのは、ある種の痛ましさに直結するような、絵画作品の恍惚のたたずまいを産みだした画家たちを論じているところ。…
バタイユ晩年(といっても58歳の時)のエドゥアール・マネ論。西洋絵画の世界にブルジョワ的日常空間と色彩の平面性を導入することで、本人の意図しない数々のスキャンダルをひきおこし、印象派をじはじめとした近代絵画の道を切り拓くことになったエドゥ…
無神学大全として生前刊行された第一巻『内的体験』(1943)、第二巻『有罪者』(1944)と、刊行が予定されていたが未刊に終わった第四巻をバタイユ研究者の酒井健が編集した日本オリジナルの『純然たる幸福』をここ二週間くらいかけてちょこちょこ通して読んで…
非効率を退け最適化を追求するなかで、利便性と同時に発展進行する冷たい無思考の世界が、高度技術化社会のなかで非人間的な振舞いを誘発容認する悪をも同時に生み出しているのではないかということを、20世紀の歴史を振り返りつつ問題提起し、著者なりの…
禅宗初祖の菩提達摩と初期禅宗の僧たちの思想を達摩の語録という体でまとめられたもの。本文、読み下し文、現代語訳、注釈の四部構成。注釈が充実していて、本文に関係なくこちらだけをつまんで読んでいてもとても参考になる。また、読み下し文もどことなく…
岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…
訳者によりスピノザ思想の入門書的性格をもつと判断されたために書名に「入門」の語を付けられてはいるが、スピノザの思想の根幹部分に容赦なく斬り込んでくる挑戦的な書物。もったいをつけずスマートに核心に斬り込みながら、淡々とすすむスタイルが爽快。…
装丁は大事。 バタイユの論文の新訳の装丁に、キリンジの「スイートソウル」のプロモーションビデオの五つのシーンが使われていたので、どんな関連性があるのか気になって、はじめてキリンジのCDを聞き、ネット上でPVの動画を探して視聴してもみた。 は…
スピノザの主要三著作『神学・政治論』『エチカ』『政治論』(邦訳『国家論』)から、大衆各個人の情動を根底に構成される国家体制について思考する政治論を分析している。ホッブスとの自然権の譲渡と契約をめぐる差異、マルクスとの理論構築においての外的…
政治哲学・社会思想史を専門とする哲学者浅野俊哉のスピノザ論。主として第二次世界大戦前後にかけてスピノザの思想を語った思想家6名について検討しながら、スピノザの現実的かつ根源的な思考の射程を浮かび上がらせる精緻な論考。20世紀の思想家の政治…
遺構の中から鈴木大拙晩年の講演用英文タイプ原稿を翻訳編集した一冊。文化の異なるアメリカ聴衆向けに書かれた論考は、仏教文化や仏教的教養から離れたところにいる現代日本人にとっても分かりやすく刺激的な内容にあふれている。そこに的確な訳注と編者に…
不生禅の盤珪の重要性を見出し道元観照禅と臨済看話禅との違いを説いた鈴木大拙の手になる盤珪禅への導入書。先行して出版されている岩波文庫の鈴木大拙編校『盤珪禅師語録』(1941, 1993)をベースに、よりコンパクトにまとまった原典紹介がなされている。1…
曹洞宗の黙照禅、臨済宗の看話禅、臨済系の寺から出た盤珪の不生禅、武士から曹洞宗の僧侶となった鈴木正三の二王禅、日本の禅の主だったところの流派の孤峰をたどることができる一冊。禅の「大死一番、絶後蘇生」の悟りとその後の生き様の四者四様を、多く…
現在のグローバリゼーションの時代において、異質な他者との共存を考えるための知恵として、古代から営まれてきた東洋哲学の清華を見直していこうという意図をもって書かれた著作。大乗仏教の根幹をなす唯識思想から、華厳の事事無礙法界を経て、空海の曼荼…
2014年の博士論文「本質と実在 ― スピノザ形而上学の生成とその展開」をベースに編み直された著者初の単著。慶応大学出なのに法政大学出版会というちょっと変わった期待のかけられ方を感じる著者で、あとがきによると、ライプニッツと中世哲学を専門領域とす…
集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほど…
ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したい…
21世紀の哲学界での思想動向を図式的に手際よくまとめている導入書。思弁的実在論、加速主義、新実在論の代表的論者の思考の枠組みが、資本主義と情報技術、機械と科学と数学で、非自然化していっているような現代世界に、どう伍していくかが見られ問われ…
私小説。標準的で規範的なものの抑圧に対するマイノリティ(ホモセクシャル)側からの抵抗と困惑の表明。「仮固定」「偶然性」「意味がない無意味」「無関係性」「分身」「生成変化」など千葉雅也の哲学書で語られている概念が、学生時代(『デッドライン』…
欲動のもとめる対象「対象a」あるいは「小文字の他者」をめぐる本格的考察が展開されることになる起点となったラカンのセミネール。聴講対象者はラカン派の分析家で、セミナールも10年目となると、前提されている知識が多くてなかなか全体像がつかみにくい…