海外の古典
第二次世界大戦下のフランス、1940年6月ナチスドイツの侵攻によりパリが陥落したのち、ナチスの傀儡であるヴィシー政権が成立、危険な無政府主義者たちあるいは退廃芸術家と目されていたシュルレアリストたちは、アメリカへの亡命を余儀なくされた。本…
アウグスティヌスの主著、正式名称『神の国について異教徒を駁する』全22巻のうちローマ陥落をめぐる保守勢力のキリスト教批判への対抗としてローマ帝国に内在していた問題をめぐって書かれた第1巻から第5巻までを収めている。神話の神々とその祭祀、ス…
意図することなく宗教改革の火付け役のひとつともなった作品。軽いようでいて、現状回復不能にしてしまう、パロディの掘り崩す力を、沓掛良彦によるラテン語原典からの新しい翻訳ですっきり楽しめる。五百年前の古典作品ではあるが、友人のトーマス・モアの…
京都北白川教会で1973年に行われた講話6篇をベースに編纂されたアウグスティヌスのキリスト教一般信徒向けの研究。第1話は中央公論社「世界の名著」シリーズのアウグスティヌスの解説「教父アウグスティヌスと『告白』」(1968)でも強調されているアウグス…
語学の天才という評価を誰も否定できない井筒俊彦の語学の先生が西脇順三郎。 専門は英文学だけれど、世界を相手にしたモダニズム、ダダイスム、シュルレアリスム運動の中心人物・かけがえのない詩人という側面もあって、19世紀フランス象徴派の代表的詩人…
ダンテの『神曲』を粟津則雄が推奨していた寿岳文章訳で読んだ。単行本の刊行は1974-76年、この訳業により1976年の読売文学賞研究・翻訳賞を受賞している。私が今回手に取ったのは集英社ギャラリー[世界の文学]1古典文学集。イタリア文学者河島英昭によるダ…
岩波文庫のアウグスティヌスの翻訳は『告白』『神の国』ともに服部英次郎の手になるもの。 私は中央文庫の山田晶訳『告白』全三巻を読んでアウグスティヌスに興味を持ち、近くの図書館でいちばん手間のかからない解説書であったという理由で本書を手に取った…
本日12月9日は106回目の漱石忌。レオパルディの『断想集』からの引用がある漱石の『虞美人草』の該当箇所である第15話と第17話の抜粋が併録されていたために、はからずも知ることとなった忌日。漱石が亡くなったのは49歳。『虞美人草』は職業作…
視覚芸術において革命的なメディアとして十九世紀に登場した挿画本で活躍し、その初期において技術的な完成度としてひとつの頂点に達していたギュスターヴ・ドレ。本書はダンテ『神曲』のために作成された140点近い版画作品をすべて刊行当時のオリジナル…
古典作品には最初に触れて欲しい年齢層というものは間違いなくあって、本書もできることであれば、十代のうちのどこかで出会っていたほうがよい古典作品に挙げられる。訳者のあとがきにも日本の中高生がスペンサーの詩を気軽に朗誦できるようにしたいという…
山川丙三郎の文語訳(1914-1922)ダンテ『神曲』を導きの糸として取り入れていたのは大江健三郎の代表作のひとつ『懐かしい年への手紙』(1987)。本書はその翌年に出版された地獄篇のみの読み解き本で、寿岳文章訳(1974-76)の訳業に大きくインスパイアされてい…
困難に向き合うことも多くあった大作『エルサレム解放』の執筆中をぬって書かれた詩人タッソの資質をはばたかせた劇作。これぞ王道というオーソドックスな恋物語。死の際からの生還、愛の行き違いにかかるリスクのとてつもない大きさ、行ったり来たりの展開…
多作の思想家であったというエピクロスの作品が散逸してしまってほとんど残っていないのに対し、エピクロスの思想を展開したルクレティウスの『事物の本性について』全六巻が残ってきたのはなぜなのか? キリスト教の教義から見ればともに異端として退けられ…
本書はイタリア・バロック文学の古典『エルサレム解放』の本文を交えたダイジェスト版の翻訳で、正確には『エルサレム解放 トルクァート・タッソの原文にアルフレード・ジュリアーニの語りを交えた長篇叙事詩抄』というタイトルの古典再編集作品である。感覚…
ベンヤミンの『メディア・芸術論集』を読み返していたところ、シェ―アバルトを褒めている「経験と貧困」というエッセイに目が止まったので、手に取って読んでみた小説。出版社未知谷の編集者による煽り文句は、惰眠をむさぼる「善良な市民へ疾駆するプレ・ダ…
ロジェ・カイヨワがカントが美に与えた定義である「目的なき合目的性」の典型的例として称賛したサン=ジョン・ペルスの詩の翻訳選集。 ありとしあらゆるものの名を呼びながら それが偉大であると唱えた、生きとし生けるものの名を呼びながら それが善美であ…
為政者側の論理を整えるための思想としての儒家に対し、無為自然の優位を説く老荘の思想は、被征服者たちが追いやられた南部の土地で形成されていったという指摘にはじまり、墨子の社会主義的思想や揚朱の個人主義をともども採り入れ老子の哲学的側面を広く…
清水書院の「人と思想」シリーズは伝記と思想案内を同時に行っている質が良く効率も良い入門書であるが、本書『エピクロスとストア』は入門書の域を超えるくらいの本格的な思想案内書となっている。 エピクロス派もストア派もともに世界は物質から構成されて…
無感動状態であるというわけではないと思っているのだが、シオランのアフォリズムには、本当のところ心が動かない、現時点での私には響いてこない。断章形式ということもあって、それほどストレスなく、いくらでも読もうと思えば読めてしまうのだが、不思議…
講談社の月間PR誌『本』に25回にわたって連載されていた十七世紀哲学史エッセイを一冊にまとめたもので、内容的にはだいぶくだけた感じの思想紹介になっている。取り上げられているのはデカルト、スピノザ、ホッブズ、ライプニッツの四人で、上野修の著…
講談社現代新書の『スピノザの世界 神あるいは自然』(2005)に先行する上野修のはじめての単著。80年代から90年代にかけて学術誌に発表された論文を集めたもので、内容的には学問的。参考になる注も付いている。論述対象の配分はスピノザが70%程度で圧…
講談社現代新書にはスピノザを扱ったものが三作品あり、本書はその中でいちばん最初に刊行されたもの。 スピノザの初期の作品『知性改造論』と死後刊行の主著『エチカ』(正確には『幾何学的秩序で証明されたエチカ』)とを扱った解説書で、真理と倫理の次元…
『老子』テクストの誕生と受容の歴史を概観する第一部と、『老子』テクストを五つのテーマに分けて代表的な章の読み解きを行なった第二部の二段構成。 第一部では残存する複数テクスト間の差異と歴代の『老子』注釈書の変遷から、成立の経緯と儒教との関係を…
教会と対立していると考えられる世界を世俗と定義したうえで、世俗的関心から宗教的問題に深くアプローチした哲学者について考察したコンパクトな書物。取り上げられた哲学者のラインナップが魅力的で、特に日本ではほとんど触れられることもないサンタヤナ…
バークリは、物質を否定し人間の知覚する精神と神の存在のみを実体であるとした18世紀アイルランドの哲学者で聖職者。主著『人知原理論』は1710年の刊行。 バークリの物質否定を強く打ち出した観念論は、ニュートンの自然科学的考えが力を持っていた当…
デューイのプラグマティズム、特に民主主義を論じたものよりも認識論や論理学に言及することの多い哲学的な論考に関しては、きわめて明朗快活で、読んでいて気持ちがよいものが多い。それらの論考のなかでは、実践的な未来志向の思考とコミュニケーションを…
ジョージ・オーウェルの『一九八四年』(1949)と並ぶディストピア小説の名作。古典として残り、読まれ続けられている作品だけあって、とてもよく出来ているなという印象が強い。オーウェルの『一九八四年』がカフカ的悪夢を感じる悲劇的な重厚さに満ちている…
昭和63年(1988)は今から34年前、編集者松岡正剛30代後半から40代前半に行った対談10篇を集めた一冊。錚々たる対談相手にすこしも引けを取らない松岡正剛の博覧強記ぶりに舌を巻く。それぞれの専門分野以外についても視界が広く且つ深い人たちの放…
タゴール自身の英訳詩からの重訳をベースにした訳詩集。九つの詩集と初期詩篇をおさめる。代表作として森達雄訳の『ギタンジャリ』のほかに片山敏彦訳『渡り飛ぶ白鳥』が収録されているところに大きな意味がある。 両者とも、梵我一如思想の色濃い「わたし」…
ニーチェに先立って従来のキリスト教的価値観を超える善悪の彼岸を、自身の詩作と版画と水彩画によって切り拓こうとしたイギリスの芸術家ブレイクの、画家としての業績を、基本的に年代順に紹介した作品展のカタログ。ブレイクは銅版画家、挿絵画家が生計を…