海外の古典
タゴール自身の英訳詩からの重訳をベースにした訳詩集。九つの詩集と初期詩篇をおさめる。代表作として森達雄訳の『ギタンジャリ』のほかに片山敏彦訳『渡り飛ぶ白鳥』が収録されているところに大きな意味がある。 両者とも、梵我一如思想の色濃い「わたし」…
ニーチェに先立って従来のキリスト教的価値観を超える善悪の彼岸を、自身の詩作と版画と水彩画によって切り拓こうとしたイギリスの芸術家ブレイクの、画家としての業績を、基本的に年代順に紹介した作品展のカタログ。ブレイクは銅版画家、挿絵画家が生計を…
ブレイクの創作全期間のなかから選ばれた詩篇によるアンソロジー。前期の代表的詩集『無心の歌 The Songs of Innocence』(1789)、『有心の歌 The Songs of Experience』(1794)の詩篇におおきく偏ることなく、全体的な業績が想像できるような編集がされている…
無神学大全として生前刊行された第一巻『内的体験』(1943)、第二巻『有罪者』(1944)と、刊行が予定されていたが未刊に終わった第四巻をバタイユ研究者の酒井健が編集した日本オリジナルの『純然たる幸福』をここ二週間くらいかけてちょこちょこ通して読んで…
『ギタンジャリ(英語版)』ただ一冊の功績によって1913年にアジア初のノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの日本版詩選集。基本的にはベンガル語の詩人であるが、本人による英訳、というよりも英語による改作した作品のほうが広く読まれて…
2022年現在一番新しい翻訳かと思って調べたら、2021年はボードレール生誕200年ということもあってかもうひとつ新しい翻訳が出ていた。なんにせよ研究と読解の成果が新しく出てくることは、ボードレールに触れる機会が増えるということだけ見ても、いいことだ…
角川文庫のブレイク詩集の訳者である寿岳文章(1900-1992)より十四歳年長の英文学者土居光知(1886-1979)によるブレイク初期の三詩集の翻訳アンソロジー。 無心の歌(The Songs of Innocence、1789年)経験の歌(The Songs of Innocence and of Experience…
チューリッヒ・ダダ100周年、アンドレ・ブルトン没後50年の年に刊行されたダダ・シュルレアリスム新訳新編アンソロジー。上下二段組み、236ページ。詩人32名、199篇という満足感が得られるラインナップであった。刊行の意図としては、美術の世界のダダ・シュ…
ステファヌ・マラルメの最後の作品「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」の最新日本語訳。柏倉康夫によるマラルメ翻訳は、晦渋さが極力排除された理解しやすくイメージを得やすいものとなっている。さらに、先行する研究や翻訳への目配りが届…
様々な分野の作家に大きな影響を与えているエミリ・ディキンスンンの詩の世界を、各分野で参照引用されている作品を取り上げながら、原詩と新訳と解説で詳しく多角的にとらえている最新アンソロジー。音楽、アート、絵本、映画、演劇、詩と小説、書評、評論…
ウォルト・ホイットマン(1819-1892)と並び称されるアメリカの国民的詩人エミリ・ディキンスン(1830-1886)の没後100年にあわせて刊行された日本語訳アンソロジー。およそ1800篇残されたディキンスンの詩のなかから154篇を選び、作品番号順(基本的…
19世紀前半のポーランドを代表するロマン派詩人アダム・ミツキェーヴィチの最高傑作とも言われる未完の詩劇『祖霊祭』の関口時正による編集翻訳作品。最後に書かれたという第三部は、政治色が濃く、また分量も突出して大きく、他のテクストからの独立性が…
中国江蘇省蘇州市にある臨済宗の寺、寒山寺に伝わる風狂超俗の伝説の僧、寒山拾得のうちのひとり、寒山。 禅画・水墨画に描かれる異形瘋癲の寒山の姿を想い起す人のほうが多いであろうが、そのイメージとはかなり異なる姿が寒山の詩からは読み取れる。 本書…
キュニコス派(犬儒派)ディオゲネスから説きおこし、ストア派初期のゼノンから後期のマルクス・アウレリウスまでの哲学をたどる概説書。 自分の力ではどうにもならない外的条件に対してどのように振舞うのが良いかに焦点を当て、意志の力で自己統率し運命に…
どことなく宮澤賢治が書きそうな話。キリスト教と法華経の世界の違いはある。 重く冷静な梟と軽く陽気なナイチンゲールが互いに退かずに自分の優位性について言論でもってはりあっているところに面白味がある。 原詩の成立時代は12世紀後半中世であっても…
パルメニデスやゼノンに連なるエレア派の論理学を学んだであろう「エレアからの客人」を対話の主人に据えたプラトンの後期対話篇2篇。ソクラテスは対話導入部にほんの少し顔を出すだけで、後期プラトンの思想を代弁する「エレアからの客人」が、「分割法(…
ベケットの作品は小説も戯曲も基本的に目的も到達点もない。戯曲については、プラトンの対話篇と並べて読んだりすると、その違いに呆然となる。プラトンの対話篇は遠回りしているかに見えても中心主題に向けて求心的に進んでいくが、ベケットの対話はきっか…
未完ながら初期ドイツロマン派の良心が結晶したような詩的な小説作品。夢みる詩人が旅をする中で出会った人たちに関係しながら精神的に成長し世界の奥行きを覗き見るようになっていくとともに、運命の女性との出会い成就するまでが完成された第一部「期待」…
7世紀から9世紀のあいだに写本が成立したとする説が有力な古英語で書かれた全3182行の英雄叙事詩の最新対訳本。古英語がどんなものかということと古典注入という関心から手に取ってみた。個人的に西脇順三郎対策という意味もある日本で8世紀といえば『古…
ノヴァーリスの『花粉』からデリダの『散種』へという仲正昌樹の『モデルネの葛藤』のなかにでてきた案内を読んで、実際にノヴァーリスの『花粉』が収録されている本書を手に取ってみた。 シュレーゲルの反省と否定による無限超出に比べて、ノヴァーリスには…
宇宙の理解に数学を用いたピュタゴラスがヨーロッパ哲学の最大の源泉であるという主張に目を洗われた。対話と政治倫理あるいは正義や徳についての議論に重きを置いたソクラテスではなく、数学ベースの真理究明と美的探究に重きを置いた知性と技術優位のピュ…
仲正昌樹、30歳を越えて提出した長大な修士論文をベースにした著作。院試失敗や統一教会への入信脱会など起伏が大きい経歴を経ての著述。自身のこだわりをあまり表面には出してこないが、研究対象に対して妥協することなく調査している姿勢がうかがえて、…
プラトンの後期対話篇に於けるソクラテスは、語り手でも対話者でもなく、もっぱら聴き手の位置にいる、日本の能の構成上でいえばワキの位置に控えながら、全体を無意識的に統括する主宰者の位置にある。主宰者は迎えいれた主賓を称え、主賓の最高の精神活動…
パルメニデスを主人公にした対話篇。 年少のソクラテスやアリストテレスに対する思考の準備運動の実践教育らしいが、字面を追うだけで精一杯。文書で読んでいるからまだいいようなものの、話し言葉を耳で聞いて理解し対応するとなると至難の業。 一と多、有…
仲正昌樹の博士論文『<隠れたる神>の痕跡――ドイツ近代の成立とヘルダリン』(1996)に、2009年のハイデガー・フォーラムでの報告論考「哲学にとっての母語の問題――ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐる政治哲学的考察」を付録としてつけて刊行されたもの。 市民…
「感性の歴史家」ともいわれているアラン・コルバン、題名と本のたたずまいに魅かれて試し読み。『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』と迷ったが、どちらかといえばメジャーな分野を対象にしたものからという判断で、こちらから参入してみる。 内容的に…
ストア派の最新入門書。ストア派の歴史と体系を時代区分ごとに論じたコンパクトな学術書で、短期講座のテキスト向き。訳書である白水社版で140ページ弱の分量ではあるが、ストア派の始祖とされる紀元前三世紀はじめのゼノンの思想からはじめて、現代の「…
2022年は「荒地」刊行百周年。ほかにはジョイス『ユリシーズ』百周年、マルセル・プルースト没後百年、日本では森鴎外没後百年(大正11年没)などの年にあたる。 この100年間の社会変動は大変なものだが、文芸の世界ではどれほどの展開があっただろ…
ストア派の哲人エピクテトスは、彼が敬愛するソクラテス同様、自分ではなにも書かなかった。 ソクラテスの言行を弟子のプラトンが残したように、エピクテトスの言行は弟子のアリアノスによって残された。 歴史家として著作を持つアリアノスの書き残したエピ…
訳文の中に出てくる「免算」という見慣れない語彙に引っ掛かった。 「免算」だけでは検索でヒットしなかったので、「免算 数学」と「免算 バディウ」で検索したところ、科学研究費助成事業データベースに導かれていった。 アラン・バディウの数学的存在論と…