人文書
量子力学が簡単に理解できない理由は「量子力学が複素数の世界の力学」(p169)だから、ということを繰り返し論じてくれたところに、本書のいちばんの価値があるのではないかと思った。 【量子力学の要―確率振幅について、『ファインマン物理学』第5巻から…
一般相対性理論の入門解説書。類書よりも丁寧にかみ砕いた解説書になっていると思うのだが、やっぱり素人には何となくしか理解できない。重力によって時空はゆがむ。重力が強いところでは時空がゆがんでいるので、地球のような重力が弱いところから観測した…
アメコミ風味の相対論・量子論の紹介書。他の本を読むための準備運動とか、息抜きの並走書として読むくらいがちょうどよい。それでも10章、11章の量子の世界と宇宙についての文章は、単独でも読みごたえがあるものだった。 量子力学では、粒子を、不確定性原…
サイエンス作家竹内薫がガイドする「ファインマン物理学」への手引き書。三分冊のうちの最終巻のようだが、「ファインマン物理学」の原書第1巻は「力学」、第2巻が「光・熱・波動」ということなので、こちらから読みはじめた。 ファインマン自身の魅力に加…
中沢新一と斎藤環の助けを借りつつ、3.11以降の時代にハイデッガーの『放下』を読むという内容。『暇と退屈の倫理学』で示された余暇にバラを配置する手続きの前に、荒れた心も場も整えなければならないだろうという想いに駆られての論考と受け取った。 …
恥ずかしながら「光子はエネルギーを持っているのに質量がゼロとはどういうこと?」と理系世界では常識レベルかも知れないことをずっと疑念に思ってきたのだが、本書ではじめて腑に落ちた。「電子対創生」。いままで読んだことはあったかも知れない。でも、…
世界の再魔術化、魅惑の世界の再来ということに関してモリス・バーマンは「デカルトからベイトソンへ」という線を引いた。イリヤ・プリゴジンはバーマンとはまた別の視点から複数の魅力的な線を引いている。 ディドロ、カントからホワイトヘッドへ 独立体か…
本書はキャッチ―なタイトルと親しみやすいカヴァーのイラストで一般向けの書籍の体裁をとっているけれども、実情としては人工知能系の国家予算供与プロジェクトの結果報告書といったもので、システム業界以外の読者層にたいして有益な情報は全篇通してそれほ…
重複なしの漢字一千字を四字一句の250の韻文に編纂した文字学習用の一篇。使用されている故事成語の出典等を注解した李暹の「千字文注」の訳をそえて二句ごと紹介する体裁。中国古代よりの徳目である忠孝に関連するエピソードにもたくさん触れられる。 そ…
エコエティカ(eco-ethica)とは、人間の新しい生活圏における新しい倫理学、「生圏道徳学」「生圏倫理学」という著者が1960年代に提示した現代に必要とされる哲学。高度技術社会、産業社会の中で失われた徳目、審美眼、品格、聖性といったものをもう一度取…
教育は洗脳の側面を持っていると言われるなかで、自主的に学習していこうとする者は進んで洗脳される態勢をとっているカモのようなものなのに、相対論と量子論の洗脳はなかなかきまってくれない。古典力学の洗脳が強くて解けないので、新しい洗脳を弾いてし…
ジャーナリストの池上彰さんは、どこかの新書で、テレビは見るものではなく出るものだということをおっしゃっていた。いちばんの理由は情報収集にかかる時間面でのコストパフォーマンスが悪いためということだったと思う。当事者の意見なので、そんなものな…
一貫して心身並行論から読み解くスピノザ『エチカ』十五講。日本のマーケットだけで収まってしまうには惜しい一冊。英訳、仏訳されて世界の読者層にも読んでもらいたい。 意志と結び付けて人間の自由を理解することは、道徳的思考のもっとも典型的で基本的な…
一回試行の確率空間って、日々の生活とか歴史の歩みのことを言っているようだ。 理系の学者でうまい文章を書く人はとても魅力的で、普段は思いもつかないようなことを示唆してくれる。 適当に訓練された数学者は、数学的理論に対して’数学的審美眼’ともいう…
左翼を自認する社会学者ウォーラーステインが提示する希望をこめた未来世界のモデル。 資本主義システムの決定的な欠点は、私的所有にあるのではなく――それは単に手段にすぎない――商品化にある。商品化こそが資本の蓄積において不可欠の要素なのである。今日…
なに言っているんでしょう、ウィトゲンシュタイン。そんなことばっかり言ってると愛しのチューリング君にあきれられてしまいますよ。 前回の最後は紛糾してしまった。そしておそらく、今回も同様にもつれることになりそうだ。少し前に私が辿り着いたポイント…
デリダの序説はフッサール論であるとともに、ジェイムズ・ジョイス論という側面を持っている。ジョイスを論ずるのにヴィーコを持ってきたベケットと、フッサールを持ってきたデリダ。これまでデリダは苦手で、お付き合いするのをためらうことが多かったのだ…
文化を担っているという意識をことさら持たなくとも、日常の活動の中で、文化的なものを伝える媒質あるいは再生する装置としての自分自身というものを思うと、すこしプラスの感情が発生する。フッサールの『幾何学の起源』の文章は、そうした機会を発生させ…
近代における世界の脱魔術化が引き起こした硬く冷めた知の世界を、魅力あふれる高度に科学的な魔術化した知の世界へ。帯を書いた落合陽一や解説のドミニク・チェン、さらには訳者の柴田元幸にも大きなインパクトを与えた著作ということで、楽しみに読んだの…
かなりきっちりとルーマンの社会システム理論を紹介してくれている入門書。教科書としても使われているようで、この手の書籍にしてはかなり重版されている。さきにオートポイエーシス(自己創出、自己産出)論を少しかじっていないと飲み込みにくいかもしれ…
ノイマンの遺稿。現代コンピュータの生みの親が最後に綴った言葉は六十年の時を経てもなお輝きを失わない。第三次人工知能ブームの世の中で一般向けに出版されている解説文に書かれている基本的な重要情報は本篇100ページに満たないノイマンの原稿のなか…
同じ年に生まれ、デルフトとハーグという近隣都市に住んでいたフェルメールとスピノザの、伝記的な出会いの可能性と、精神の近接性を描き上げた美しい書物。フェルメールのカメラ・オブスキュラのレンズを磨いたのがスピノザで、フェルメールの『天文学者』…
岩波の『世界』の連載(2004.01-08)をまとめた日本向けの書籍。 テッサ・モーリス-スズキはイギリス生まれ、オーストラリア在住の日本経済史・思想史の研究者。 自由主義経済下の世界を耐え忍びながらオルタナティブを考えるという趣旨の本。ネグリのように…
ビックリです。 人工知能やロボットがこのまま進化していって自律的な行動をするようになったら法人格を与えられるようにすすんでいくだろうというのは、ごもっともな指摘で、リアリティがありました。法人としての人工知能やロボット。現実化しそうな議論…
歴史家は各時代の特徴と制約を浮き上がらせる能力を磨いている専門家で、その言説は冷静に聞き入れておく価値がある。ブルクハルトはスイスのすぐれた歴史学者で、現行のスイス・フランの最高額の紙幣の肖像にも用いられている。ニーチェとも深い親交があっ…
いまの世の中、どちらかといえば失敗していると思っている人のほうが多いのは確かだ。どうにかしたいと思って足掻いているあいだは、自己正当化バイアスがより強くかかっているので、自分の体験からいえば結構つらい。そういう時には瞬間腑抜けになって、ダ…
主権者といわれても、人並みに税金払っているよ、くらいの感覚しかない。日本の行政のサービスが劇的に変わらないことにたいする信任を都度出しているというところなのだろうか。 理想的な民主主義では、主権者は投票日1日だけではなく、つねに主権者である…
『野生のアノマリー スピノザにおける力能と権力』(1981)から30年たったところで出版されたネグリのスピノザ論集。会議での発表用テキスト四本に序章を追加した著作。口頭発表用の原稿とあって、味わいが濃いわりに、理解もしやすい。聴衆や読者の好奇心を…
日本で独自に編まれたインタビュー集。エマニュエル・トッドはフランスの歴史人口学者・家族人類学者。各国各地域の家族構造から人間の社会活動としての政治・経済・文化を解析するすぐれた学者。本書では特に経済に関する洞察が光っている。 中国人が人民元…
識字化という諸刃の剣、人口減少を受け入れている国としての日本。この二つの発言が深く刺さった。 【識字化という諸刃の剣】 識字率の普遍的な広がりは、人間は平等だという潜在意識をもった社会をつくった。なぜならだれもが読み書きできる社会だからです…