美術
禅画と墨蹟の芸術家白隠でもなく、臨済宗の聖僧たる思索家白隠でもなく、寺院経営と著作出版に機敏に立ち回り独自のこだわりも見せる、世俗に深くかかわりをもった人間くさい側面を中心に紹介がなされた白隠の評伝。禅宗史の芳澤勝弘の業績と美術史の山下裕…
金井美恵子がフランシス・ポンジュの詩「動物相と植物相(ファウナとフローラ)」を引用しながら岡鹿之助を語ったエッセイ「思索としての三色スミレ(パンセとしてのパンセ)」を『切り抜き美術館 スクラップ・ギャラリー』に出会ってしまったがために、そこ…
映画、とりわけオーギュス・トルノワールを父に持つジャン・ルノワールに寄り添ってもらいながら、図像にも高揚する個人的な日々を、文章で迎え撃ちつつ、外の世界にも波及させようとしているかのような、勇ましさも感じさせる美術エッセイ集。 戦闘的で毒の…
2021年、11月を迎えた。 なんだかびっくりだ。 年の終わりを迎える準備なんかまったくできていないし、新たな一年なんてものも、ぜんぜん視野に入ってこない。 仕事的には怒涛の10月後半があって、まだその余韻から抜け切れていないでいる。 久方ぶ…
カラヴァッジョを最初に凄いなと思ったのは、静物画「果物籠」を中学生くらいのときに画集で見たときだったと思う。テーブルの上に置かれた籠は手に取れそうだし、籠の中のブドウは指でつまんですぐに食べられそうなみずみずしさだ。すこし虫に喰われたとこ…
哲学者の木田元に、専門分野ではないにもかかわらず自ら翻訳しようとまで思わせた魅力的な研究書。美術史家パノフスキーが近代遠近法の成立過程と意味合いを凝縮された文章で解き明かす。日本語訳本文70ページ弱に対して、原注はその二倍を超えてくる分量…
聖と俗、彼岸と此岸の聖別と交流をさまざまな角度から論じた美術論集。アンディ・ウォーホルとキリスト教、シルクスクリーン作品とイコンとの関連を論じた「アンディ・ウォーホル作品における聖と俗」がとりわけ興味深かった。大衆消費社会に流通する代表的…
明治初期に初めて日本人として本格的に油彩を受容導入した高橋由一についての人物評伝。著者のあとがきから小説風の体裁をとりたかった意向を感じ取ることができる。章立ても第何話というようになっていて、高橋由一の人物像が感覚的によく伝わる。武士の気…
書くより読む優先の時間配分が続く生活のなかで、読後感想をまとめる時間に向きあうために超えなくてはならないハードルが高い。しかし、書かないと読んだことの定着が落ちる。消えてもったいないかもしれないと思うことはとりあえず記録しておく。 加藤郁乎…
25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…
絵巻四作品の全篇に拡大部分図、関連図版を配置して二十世紀のアニメーター高畑勲が絵と詞とが融合した日本に特徴的な表現を読み解いていく。絵巻全篇が省略されることなく掲載されることで、配置の妙や運動感、空間造形の深さがよりよく味わえる。美術館に…
ColBase 国立博物館所蔵品統合検索システム(URL:https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja )というものの存在を教えてくれた一冊。作品画像がないものが少なくないが、検索して作品画像が利用できるというところは素晴らしい。公営美術館全般に広げてくれた…
名画に描かれた手の部分200点を切り出して、手の表現力に眼を向けさせる一冊。顔と手は衣服をまとわないがゆえになまめかしいというところから、絵画の中の手を凝視する。一通り手のクローズアップを解説付きで通覧したあと、176ページ以降に掲載作品…
「生(き)の芸術」と訳されている「アール・ブリュット」。正式な美術教育を受けていない製作者たちの美術作品であり、「アウトサイダー・アート」とよばれる場合もある。日本においては精神の病を抱えている人たち、知的障害を持つ人たちの作品を指すこと…
写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。 私が写真という装置を使って示そう…
鳥獣戯画を中心に、伊藤若冲、歌川国芳、河鍋暁齋、曽我蕭白、森狙仙など、小さな動物や虫たちが躍動する日本画の世界に案内してくれる一冊。優美で瀟洒な線と淡くて品の良い彩色が心を和ませてくれる。兔と蛙と雀と金魚。猫と鼠と猿と亀。祭りと遊興に励む…
日本美術の本を二冊。 矢島新『日本の素朴絵』は、先日読んだ金子信久『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』の流れで、精緻さや厳密さにはに向かわない趣味嗜好にもとづく絵画表現の紹介本として参照してみた。第一章の作者が誰かよくわからない「絵巻と…
宮下規久朗の著作を読むに関しては、不純な動機が働いている。予期せぬ時期に、突然準備なしに愛する娘さんを失って、中年にいたるまで本人を突き動かして来たであろう人生や仕事に対する価値観が、一変に崩れてしまった一表現者の仕事。現代の日本美術界に…
美の中心地域の美の中心をはずれたところに存在する日本独自の美のすがた。ゆるい、あまい、にがい、変態。正統と正面から闘う必要がないところで棲み分けができた日本の懐の深さというかだらしなさ。柄谷行人が『帝国の構造 - 中心・周辺・亜周辺』で示した…
近現代美術界。商業的にひとりの美術家が成功すると、その周りにいたひとたちも同時に注目されるようになり、すこし潤う。知られず見られることもなかった状況から、共に見られる状況にすこし変わる。それぞれの作家への深入りは、あったりなかったりで、必…
神獣と吉祥を象徴する動物たちをモチーフにした日本画と工芸品を多数紹介してくれる一冊。日本語英語併記のバイリンガル本(英題はAuspicious Animals - The Art of Good Omens)。めでたい動物たちと日本の職人たちの優れた技術を見ることで気分がなんとな…
市場にはほとんど出回っていない書籍。興味があったら図書館で借りて観て、という一冊。 明治期の日本画と洋画の激動と受容を、傍観者的立場でも微かに通覧し、追体験することができる資料的価値の高い書籍。 日本画と洋画があることで生じた苦悩と豊饒。混…
かつて理論社の「よりみちパン!セ」ホームページで連載されていたものの書籍化。中高生を中心に美術の見方をレクチャーする一冊。「西洋美術史になった私」「日本美術史になった私」「女優になった私」など過去の絵画作品や人物に扮したにセルフポートレイ…
お金は持っていないので購入という究極の評価の場には参加できないし、技術もコンセプトもないため供給側に立つこともできないけれども、なんとなく美術は好きという人のために書かれた美についての現代的な理論書。 センスなんてものは自分に一番しっくりし…
日本編と同時発刊の海外編。一冊での刊行であれば編集も変わってきたであろうが、日本で500ページ超の書籍を刊行するのは相当難しいことなのだろう。収録エッセイはスタジオジブリの月刊誌『熱風』におけるおもに絵画作品に関する連載がベースになってお…
高畑勲は言わずと知れた日本のアニメータ。私は彼の手掛けたテレビアニメを再放送で見た世代。『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など。個人的にいちばん高畑勲っぽいなと感じるのは『じゃりン子チエ』か。映画だと『ホー…
書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある…
抵抗者という視点から中井正一を語った一冊。理論的な骨格を描き出した「委員会の論理」(1936)とそれを広範に向けて拡張展開した「美学入門」(1951)を中心に中井の弁証法的唯物論を核に据えた論考を読み解いている。 中井正一が『美学入門』のなかで展開…
The Book of MA 『平行植物』の日本語版刊行を機縁に、発行元の工作舎の編集長である若き松岡正剛(当時36歳)とレオ・レオーニ(当時70歳)の間で執り行われた鮮烈な対談の記録。松岡正剛がレオ・レオーニから貴重な言葉を引き出そうと全力でもてなし、…
ウィリアム・モリスは世界を美しくしようとした。美しさへの才能が開花したのは著述の世界と、刺繍や染色、カーペット、カーテン、壁紙、タペストリーなどのテキスタイル芸術。 目指すのは争いも苦痛も失敗も失望も挫折もない、人々の趣味道楽だけでうまく回…