美術
第二次世界大戦下のフランス、1940年6月ナチスドイツの侵攻によりパリが陥落したのち、ナチスの傀儡であるヴィシー政権が成立、危険な無政府主義者たちあるいは退廃芸術家と目されていたシュルレアリストたちは、アメリカへの亡命を余儀なくされた。本…
絵が下手がゆえにどうにもへんな画面を創ってしまう画家と、上手すぎるがゆえに恐ろしいまでに緻密で驚異的な画面を創ってしまう画家がいるということをベースにして、時代の技術的要請と感覚的枠組みを交えながら、こころざわつくへんな西洋絵画を解説する…
図版だけ眺めているだけでも楽しめる、カイヨワの石コレクションをベースにつくりあげられた、石にひそむ記号探索の書。風景石、瑪瑙、セプタリア(亀甲石)、ジャスパー(碧玉)などの自然石にあらわれる形態が、想像力を刺激して連想類想を生む不思議を十…
蛸のイメージの変遷を、古代神話からロマン派の空想世界の魔物を経て現代の合理的解釈と精神分析的解釈まで概観し、物に対して想像力が働く様相を明らかにしていく、関心領域の広いカイヨワならではの類を見ない思索の結晶。蛸に親しみを抱いて文化に取り込…
安永天明期(1772-1789)の京都画壇で若冲や池大雅を抑えて最も人気の高かった円山応挙の画業の質の高さと幅の広さを、時代背景やパトロンの存在などとともに紹介した贅沢な入門書。改訂版では巻頭特集の「七難七福図巻」を増補。応挙の才能を見出した円満院…
『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』や『絵巻で読む中世』を書いた国文学者五味文彦が、鎌倉時代の名品、国宝『一遍聖絵』(1299)を単独で取り上げ解説した作品。主立った場面を図版で提示しながら、そこに描き込まれた社会や人々の様子やものの名を言語化して、視…
2021年に再増補版として『情報の歴史21―象形文字から仮想現実まで』が編集工学出版社から刊行されているらしいのだが、今回私が覗いてみたのは、ひとつ前の増補版『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』。第八ダイアグラムの「情報の文明―情報…
昭和63年(1988)は今から34年前、編集者松岡正剛30代後半から40代前半に行った対談10篇を集めた一冊。錚々たる対談相手にすこしも引けを取らない松岡正剛の博覧強記ぶりに舌を巻く。それぞれの専門分野以外についても視界が広く且つ深い人たちの放…
ニーチェに先立って従来のキリスト教的価値観を超える善悪の彼岸を、自身の詩作と版画と水彩画によって切り拓こうとしたイギリスの芸術家ブレイクの、画家としての業績を、基本的に年代順に紹介した作品展のカタログ。ブレイクは銅版画家、挿絵画家が生計を…
テヘラン出身パリ在住の哲学者による現代絵画論二本。 マネ論「現代芸術の出発」は、バタイユのマネ論を主軸に、油彩技法の革新者であるファン・エイクから、現代絵画をはからずも切り拓いたマネの絵画技法に至る流れを、より俯瞰的に示したエッセイ。マネの…
1955年刊行のマネ論を中心に、バタイユの絵画論を集めた一冊。マネ論のほかは印象主義論、ゴヤ論、ダ・ヴィンチ論が収められている。共通するのは、ある種の痛ましさに直結するような、絵画作品の恍惚のたたずまいを産みだした画家たちを論じているところ。…
バタイユ晩年(といっても58歳の時)のエドゥアール・マネ論。西洋絵画の世界にブルジョワ的日常空間と色彩の平面性を導入することで、本人の意図しない数々のスキャンダルをひきおこし、印象派をじはじめとした近代絵画の道を切り拓くことになったエドゥ…
ピアノ奏者としての高橋悠治のCDよりはお目にかかることの少ない作曲家としての高橋悠治の自演ピアノ曲が付いた絵本。長年にわたり共同制作を行ってきた画家富山妙子との共作絵本でもある。政治色が強い一般層向けの作品とは違い、読み聞かせ対象年齢が3…
古代から脈々と連なる世界各地の神話を広く繊細な視点から重層的に扱い、霊的世界と物質的現世世界の合一を主テーマとする各神話を貫くイメージを421点の図版を通じて解き明かしていく。全世界に広がる同系のイメージを、同時発生的なものと考えるより、なん…
イスラムの世界では「礼拝の対象としての聖像・聖画さらに宗教儀礼用の聖具を持たない」。建築以外には宗教の美を持たないとされ、「神の創造行為につながる生物の造形表現」に対する禁忌の念が、イスラム美術といわれる表現の領域において独特の基底を形作…
2012年、スイスで開催された東日本大震災の一周年追悼式で、クレー作品を映写しながらのローベルト・ヴァルザーの詩の朗読会が行われたことがきっかけとなってつくられた詩画集。日本語とドイツ語で行われた朗読会での聴衆の反響が大きかったことから、…
カラー図版48点に著者ハンス・K・レーテルによる図版解説と序文がついた大判の画集。油彩だけでなく木版画やリトグラフなどの作品にも目配せがされているカンディンスキーの画業全般の概要を知ることができる一冊。全油彩点数1180点から見れば、参照用の…
創刊号だけに終わってしまったが後の世に大きな影響を与えた美術年刊誌『青騎士』の日本語訳復刻本。第一次世界大戦の勃発と主筆の位置にいたカンディンスキーの頑張りすぎが祟って第二巻以降は発行されずにグループとしての青騎士自体も離散消滅してしまっ…
美術家森村泰昌の初の著作にしておもしろさを徹底した大傑作。 実作者が見て語る美術は、素人愛好者が観て満足している美術とはひと味もふた味もちがったところがあり、わらってしまいながらも、目も心も洗われている。本気がすぎてふざけているようにも見え…
ドゥルーズの絵画論。哲学の自由と絵画の自由のコラボレーション。主として取り上げられるのはフランシス・ベーコンだが、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、クレー、アルトー、ポロック、抽象表現主義などにも言及しているところが読み通してみるとあらためて…
『源氏物語絵巻』、『信貴山縁起絵巻』、『鳥獣人物戯画』と並ぶ四大絵巻物のひとつ。ジブリの高畑勲をうならせた群衆描写はやはり圧巻。ひとりひとり違う仕草、衣装、顔つきと表情が丁寧にしかも生き生きとした筆で造形されている。なかにはジブリのアニメ…
良寛の書を軸に語られた愛あふれる一冊。自身のサイト千夜千冊の第1000夜を『良寛全集』で締めくくっていたこともあり、どれほど力を込めた作品なのだろうかとすこし構えて読みはじめてみたところ、ベースが口述の語り下ろしということもあり、ですます調で…
代表作『動植綵絵』全30幅を、それぞれ全図とともに4ページに数点の原寸図版を掲載して紹介する贅沢なつくりの一冊。『動植綵絵』は、実寸ではそれぞれ140×80cm程度の絹本着色の作品で、本書の売りである原寸図版で見ると若冲の繊細緻密で没入して…
山下裕二と橋本麻里、両人ともに関心のある名前ではあったので、本の背表紙に名前が並んでいるのが目に入り、手に取ってみたところアタリだった。作家としては版画家の風間サチコという名前を知れたことがいちばんの収穫かもしれない。木版画を彫って一枚し…
本書は1993年にありな書房から訳出刊行されたマリオ・プラーツの芸術論集『官能の庭』の分冊版の第一巻。全五冊の刊行が予定されている。分冊再刊行にあたっては監修者の伊藤博明により一部論考の差し替えと翻訳の再検討が行われているようだ。一冊の本…
踊念仏の一遍(1239~1289)没後十年の1299年、弟子の聖戒が師の言行をとどめ置くために詞書を調え、土佐派系統とみられる絵師の法眼円伊に描かせた全12巻におよぶ伝記作品。人が集まる法話の様子や時衆による踊念仏の集団表現や、それらとともに画か…
禅画と墨蹟の芸術家白隠でもなく、臨済宗の聖僧たる思索家白隠でもなく、寺院経営と著作出版に機敏に立ち回り独自のこだわりも見せる、世俗に深くかかわりをもった人間くさい側面を中心に紹介がなされた白隠の評伝。禅宗史の芳澤勝弘の業績と美術史の山下裕…
金井美恵子がフランシス・ポンジュの詩「動物相と植物相(ファウナとフローラ)」を引用しながら岡鹿之助を語ったエッセイ「思索としての三色スミレ(パンセとしてのパンセ)」を『切り抜き美術館 スクラップ・ギャラリー』に出会ってしまったがために、そこ…
映画、とりわけオーギュス・トルノワールを父に持つジャン・ルノワールに寄り添ってもらいながら、図像にも高揚する個人的な日々を、文章で迎え撃ちつつ、外の世界にも波及させようとしているかのような、勇ましさも感じさせる美術エッセイ集。 戦闘的で毒の…
2021年、11月を迎えた。 なんだかびっくりだ。 年の終わりを迎える準備なんかまったくできていないし、新たな一年なんてものも、ぜんぜん視野に入ってこない。 仕事的には怒涛の10月後半があって、まだその余韻から抜け切れていないでいる。 久方ぶ…