読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2023-01-01から1年間の記事一覧

コンラート・ローレンツ『文明化した人間の八つの大罪』(原著 1973, 日高敏隆+大羽更明訳 思索社 1973)

私が生まれた1971年の世界の人口は37憶、今年2023年は80憶を超えているという。50年で倍増、40億人増加している。西暦1000年時点では2億人くらいだそうだから、世界の様相が変わっていかないほうがおかしい。人口過剰と言われつつ世界…

『マチネ・ポエティク詩集』(水声社 2014)

マチネ・ポエティクとは、太平洋戦争中の1942年に、日本語による定型押韻詩を試みるためにはじまった文学運動。詩の実作者としては福永武彦、加藤周一、原條あき子、中西哲吉、白井健三郎、枝野和夫、中村真一郎が名を連ねている。後に散文の各分野にお…

エズラ・パウンド『消えた微光』(原著 1908, 1965 小野正和+岩原康夫訳 書肆山田 1987)

仮面をつけると仮面の人格が憑依する。そのような憑依体質をもった人が詩人たるには相応しいのであろう。 なにものかになりかわって歌う。なにものかをよびよせて歌う。わたしとなにものかが二重写しとなってことばを発する。エズラ・パウンドの処女詩集『消…

イアン・ターピン『エルンスト 新装版 <アート・ライブラリー>シリーズ』(原著 1993, 新関公子訳 西村書店 2012)A4変型判 297mm×232mm

カラー図版48点、モノクローム挿図33点。1作品ごとに解説を見開きで配してあるために、参照していると考えられる先行作品との関連や、採用されているエルンストが開発した多様な表現技法の数々についての焦点化が非常にわかりやすい。 河出書房新社刊行…

サラーヌ・アレクサンドリアン『マックス・エルンスト 増補新版(シュルレアリスムと画家叢書5 骰子の7の目)』(原著 1971, 大岡信訳 河出書房新社 1973, 2006 )

シリーズものにはかなり当たりはずれがあって、本シリーズ、河出書房新社の「骰子の7の目 シュルレアリスムと画家叢書 全6巻」はかなりの当たり。画家の全画業をまんべんなくピックアップしながら、図版として選択されている作品は代表作と注目作両方に目…

小出由紀子編著『ヘンリー・ダーガー 非現実を生きる』(平凡社 コロナ・ブックス)

貧困と自閉的な精神的障害のなかで生前誰にも見せることなく孤独に創造の世界に過ごしたヘンリー・ダーガー。死後にダーガーの部屋に残されていた原稿と画集を大家であるネイサン・ラーナーが見つけ、芸術的価値を感じて長年保存、美術関係者や研究者への普…

マックス・エルンスト『慈善週間 または七大元素』(原著 1934, 巖谷國士訳 河出文庫 1997, 河出書房新社 1977)

『百頭女』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』に次ぐコラージュ・ロマン三部作の最終巻。小説と銘打ちながら、章ごとの冒頭にエピグラフとして引かれる他者の文章以外には、エルンストがつけた章題のほかに文章が全くない徹底的で斬新な一冊。2…

パウル・クレー『教育スケッチブック 新装版バウハウス叢書2 』(原著 1925, 利光功訳 中央公論美術出版社 2019)

ヴァイマール・バウハウスでの1921-22年に行った形態論の授業のエッセンスを編集し刊行した実践的理論書。『造形思考』や『無限の造形』にくらべるとコンパクトで、メモ程度の文章に最低限のスケッチをつけポイントのみを浮かび上がらせた簡潔な手引書の印象…

ロラン・バルト『ラシーヌ論』(原著 1963, 渡辺守章訳 みすず書房 2006)

壮年のロラン・バルトがフランス国立民衆劇場の機関紙的位置を占めていた『民衆劇場』誌でブレヒト派の劇評家として活躍していた時代の作品。理論的背景やバルトならではのエレガンスさはしっかり融合されてはいるが、ジャーナリスティックな論争姿勢が顕著…

コレクション日本歌人選046 高野瀬恵子『源俊頼』(笠間書院 2012)

はじめての組題百首『堀河百首』をまとめ、勅撰集『金葉集』を編纂、歌論『俊頼髄脳』を残し、俊恵、鴨長明を弟子筋に、その他おおくの歌人に影響を与え、後代に名を残す源俊頼ではあるが、実際のところその歌は現代ではあまり読まれていないのが実状であろ…

垣内景子『朱子学入門』(ミネルヴァ書房 2015)

朱子学は中国南宋の朱熹が大成した新しい儒学。中島隆博の『中国哲学史』(中公新書 2022年)の朱子学の説明では、「身体的、物質的な気と、天の理を共有する性から、あらゆるものが説明できる」とあって、一般的な「理気二元論」が尊重されながら概括されて…

パウル・クレー『無限の造形』(ユルグ・シュピラー編 原著 1970, 南原実訳 新潮社 1981 )

『造形思考』に並ぶパウル・クレーの理論的著作。バウハウスにおけるクレーの講義録やメモをまとめ、関連する作品の図版をあわせて著作化したもの。構成は『造形思考』よりも荒く、断片性が強いのだが、情報量も、創作や観賞に関する示唆も、本作のほうが多…

ニコラウス・クザーヌス『非他なるもの』(原著 1462, 松山康国訳 塩路憲一訳註 創文社 ドイツ神秘主義叢書7 1992)

『学識ある無知について』(1440)の中世ドイツの哲学者・神学者であるクザーヌスの最晩年の著作。 日本では一休宗純(1394-1481)が同世代を生きていた。 注視の渾沌のなかで分析的思考を超えた無限の存在としての神を言語の限界とともに明らかにしようと勉める…

南原実『ヤコブ・ベーメ 開けゆく次元』(哲学書房 1991, 牧神社 1976)

寄る辺なく取り付く島もない虚無の場としての無底、それに憤る意志が運動として何故か発生し(神と呼ばれる何ものかの性格を帯び)、存在の根拠となる底なるものを形成し、さらには善と悪のふたつの極相をもつ世界が創造され、その創造が被造物の存在と運動…

ヤーコプ・ベーメ『アウローラ 明け初める東天の紅 (ドイツ神秘主義叢書8)』(原著 1612, 薗田坦訳 創文社 2000)

ルターのドイツ語訳聖書を読み、青年期にエゼキエル書に描かれた幻視体験に類似した数分間の幻視神秘体験を持ったところから、独自に神学的研鑽を積み、靴職人から神秘的著述家となっていったヤーコプ・ベーメの37歳の時のはじめての著作。専門的に神学や…

ダグラス・ホール『クレー 新装版 <アート・ライブラリー>シリーズ』(原著 1992, 前田富士男訳 西村書店 2012)A4変型判 297mm×232mm

カラー図版48点それぞれにダグラス・ホールの詩的かつ分析的で要を得た解説と、モノクロームの挿図32点、クレーの生涯を描きだしている巻頭エッセイからなる画集。 西村書店の<アート・ライブラリー>シリーズは、比較的多くの作品を高解像度で収録してい…

末吉美喜『テキストマイニング入門 ExcelとKH Coderでわかるデータ分析』(オーム社 2019)

本業技術職系読書。 いまの私がはたらいてお金をいただけるのは、Java,JavaScript系各種言語,XML,VBA,VB,C#,SQL, PL/SQL,その他マイナープログラミング言語数種と、プロジェクトマネジメント系各種スキルによるものであります。 50前半、あと10年くらい…

編著:赤羽喜治+愛敬真『ブロックチェーン 仕組みと理論 未来を創造するための最新動向と6つの基盤 増補改訂版』(リックテレコム 2019)

本業技術職系読書。 非中央集権的分散型台帳実現のための技術としてのブロックチェーン。 基本思想に関心はあるものの、ビットコインには全く関心が起こらない。 金融商品としては、まだ実体のある金のほうに投資対象としての信用を置いている。 システム的…

栗原康『大杉栄伝 永遠のアナキズム』(角川ソフィア文庫 2021, 夜光社 2013)

現代日本の政治学者でアナキズム研究家である栗原康の二冊目の著作。快作であり怪作である『村に火をつけ、白痴になれ――伊藤野枝伝』(岩波書店、2016年)や『死してなお踊れ――一遍上人伝』(河出書房新社、2017年)に先行するアナーキーな人物評伝の第一作…

日本パウル・クレー協会編『クレー ART BOX ー線と色彩ー』(講談社 2006)

スイスの首都ベルンに2005年にオープンした「パウル・クレー・センター」の開館記念のコンパクトな画集。 版型はA24取で140×148mm。 収録作品は138点で、全部がカラー図版(デッサンはもともと白黒だがカラー写真による掲載)。 孫でパウル・クレー財団…

ロラン・バルト『S/Z バルザック『サラジーヌ』の構造分析』(原著 1970, 沢崎浩平訳 みすず書房 1973)

ロラン・バルトとともに読むバルザックの中編小説『サラジーヌ』。ジョルジュ・バタイユが傑作『青空』において宙づりにされたような気持ちにさせられる小説として『嵐ヶ丘』『審判』『失われた時を求めて』『赤と黒』『白痴』などと並べて挙げていた『サラ…

『シレジウス瞑想詩集』(原著 1657,1675, 訳:植田重雄+加藤智見 岩波文庫 1992 全二冊)

ドイツ・バロック期の神秘主義的宗教詩人アンゲルス・シレジウス(1624-1677)。もともと医学を学んでいたが、オランダのライデン大学で学んでいた時期にヤコブ・ベーメの思想に出会ったことがきっかけで、エックハルトやタウラーなどのドイツ神秘思想に関心を…

コレクション日本歌人選024 青木太朗『忠岑と躬恒』(笠間書院 2012)

古今和歌集編者のうち二人、壬生忠岑と凡河内躬恒のアンソロジー。凡河内躬恒は紀貫之との交流も深く屏風歌の需要が多くあった時代の専門歌人ともいえる人物であるのに対し、壬生忠岑は紀友則とともに少し上の世代で菅原道真編纂の『新撰万葉集』の主要歌人…

平松洋解説 新人物往来社編『ギュスターヴ・モローの世界』(新人物往来社 2012)

A5判159ページにモローの代表的作品145点をオールカラーで収めた手軽だが充実した作品集。解説文は章ごとにわずかな分量を占めるに過ぎないが、要点を押さえてギュスターヴ・モローの人物像と作品傾向を伝えているために、ためになる。アカデミック…

ロバート・スコールズ『スコールズの文学講義 ―テクストの構造分析に向けて―』(原著 1974, 岩波書店 1992)

『記号論のたのしみ』『テクストの読み方と教え方』へ続く三部作の第一作。 基本的には文学における構造主義の運動の歴史的展開を担った研究者とその代表的著作の紹介で、丁寧な読書案内といった趣きが強い。実践的入門書というよりも文学における構造主義の…

新潮日本美術文庫23 『高橋由一』 坂本一道解説 1998 20×13cm

美術の教科書で誰もが見ている「鮭」の作者である高橋由一(1828-1894)は、西郷隆盛と同じ年に生まれた日本で最初の洋画家。海外で同年代に生まれた画家としては、ウィリアム・アドルフ・ブーグロー(1825-1905)、ギュスターヴ・モロー(1826-1898)、アルノルト…

熊谷守一の画集二冊

1.没後40年展覧会カタログ『熊谷守一 生きるよろこび』2017年 日本経済新聞社 油彩200点、日本画8点、書7点、彫刻3点、スケッチ47点、資料類13点 art.nikkei-ps.co.jp 2.柳ケ瀬画廊創業100周年記念出版『柳ケ瀬画廊の百年 熊谷芸術と…

パナソニック汐留ミュージアム監修 ジャクリーヌ・マンク編『マティスとルオー 友情の手紙』(原著 2013, 日本再編集版 みすず書房 2017)

マティスとルオーの出会いは早く1893年パリ国立美術学校のギュスターヴ・モローの教室でのことであった。出会った当初はあまり交流がなかったようだが、その後、サロン・ドートンヌでの守旧派に対しての共闘を経た後、マティスの息子のピエールが画商と…

二つのジョルジュ・ルオー版画展のカタログ

1.ジョルジュ・ルオー版画展 ―暴かれた罪と苦悩― 1989年 町田市立国際版画美術館 高木幸枝+箕輪裕 184点※『ユビュおやじの再生』『ミセレーレ』『サーカス』『悪の華のために版刻された14図』『流れる星のサーカス』『受難』『回想録』『グロテ…

ベルナール・ドリヴァル+イザベル・ルオー『ルオー全絵画』(原著 1988, 柳宗玄+高野禎子訳 岩波書店 1990)

ジョルジュ・ルオーの全絵画の目録。掲載作品数全2568点。装飾美術学校に通っていた1885年の10代の素描から、1956年85歳での油彩作品までを、時代ごとテーマごとに分けて網羅した大型本。全二冊、総ページ数670ページ。売価88000円…