2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧
ハイデッガー『ニーチェ』の原書は1961年の刊行。実際に講義が行われたのは1936~1937, 1939, 1940の期間。ナチスとは距離をとったと言われている時期ではあるが、どうにもきな臭い。 プラトニズムと実証主義における真理 ニーチェがニヒリズムの根本経験か…
まだ若いうちは恐怖はあっても驚異はなかったが、老眼が出はじめた二年前くらいから、恐怖も驚異も共に感じる精神状態になってきた。そのためもあってか、哲学書もわりとよく読むようになってきた。老いはじめてはじめて知るようになった、存在していること…
小崎哲哉『現代アートとは、何か』を読んで、コンセプチュアル・アートに慣れることも期待して、小崎哲哉の仕事をもう一冊。貧困、感染症、戦争、公害、廃棄物。センシティブな人は避けたほうがいいかもしれないが記録価値のある写真の数々。最近読んでいる…
掲題のアナクシマンドロスの言葉は100頁の思索を経てハイデッガーによって以下のように訳し直される。 「収用」に従って。即ちそれらは、「不正合」の(克服において)「正合」と、それ故又相互への「配慮」とを〔これに〕帰属させる(p114) 「存在する…
いそのかみのさざめごと。27歳の時の『排蘆小船(あしわけをぶね)』を展開させたもの。内容はほとんど変わらないが引用歌がふんだんで門人たちには学びやすいものになっていただろう。同年五月、尊敬する賀茂真淵と会見し、十二月に入門。古事記伝に舵を切…
その辺にあるであろう事物との共生。その辺に生きている私という存在の確認。 プラトニズムと実証主義における真理 ニーチェがニヒリズムの根本経験からプラトニズムの逆転を試みたこと 芸術と真理の関係に向けられたプラトンの省察の範囲と連関 芸術は感性…
1757年、宣長28歳、京都での遊学を終え松坂に帰ってのちに賀茂真淵『冠辞考』を読んだことが、王朝文学から古事記へと向かい、儒教批判論者としての骨格を固めていった決定的な出来事であった。出会うべくして出会った作品であり師である。真淵の死も…
ヘーゲルが『精神現象学』を一八〇七年にはじめて公表した際の表題「意識の経験の学」の「経験」にこだわって講義論述された論文。学問の世界で一般的に流通している「現象学」ではなくて「経験の学」こそ大事だという主張がある。 自己の知が対象に即応しな…
「美」とはなにか、ということは別に置くとして、現代アートはもはや「美」を志向していない、という現実にとどめをさしてくれた貴重な一冊。確かにデュシャンの作品集は所有していてもあまりワクワクしない、レディメイドの複製品という印象が強い。デュシ…
美についてのカントの教え ショーペンハウアーとニーチェによるこの教えの誤解 形式創造力としての陶酔 偉大な様式 芸術についての五つの命題の根拠づけ 《真理》とは、真実に存在するもの、もっと精確にいえば、真実に存在するとみなされているもの(それ自…
カトリックの世界でクリストファ・コロンブスが英雄視されているということもあるなかで作られたコロンブスの多面性を描き上げた劇。クリストファ・コロンブス第一号とクリストファ・コロンブス第二号が出てきたところで前衛劇ぽくなるのかと思ったが、スト…
身体がなければ、感情もない。毀れやすい身体とはよろしくつきあっていきたい。 美学の歴史にみられる六つの根本的事実 美的状態としての陶酔 われわれは身体を《持っている》のではなく、身体的に《存在しているのである》。この存在の本質には、自己感受と…
価値について語ることが広く行われはじめたのは十九世紀になってから、とくにニーチェ以降の現象であるとハイデッガーは指摘する。なるほど、神が生きていた時代には神と神の体系を語っていればよかった。それが失効したときに、新たな価値をみんなが探しは…
ロジェ・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』やアレクサンドル・デュマ・ペールの『モント・クリスト伯』の訳者として名を残している山内義雄のフランス訳詩集。私はポール・クローデルの詩を日本語で読みたいと思い検索していた中で出会った訳詩集…
もっぱら平安古典を読みひたり、人の情の本来的姿を観想する。生産性や効用や能率などで評価されないよわく愚かしいこころの動きを愛おしみ伸びやかにさせる。言葉によるこころの浄化と保全の運動、といったら「漢心」っぽくなってしまうだろうか。 すべて人…
あしわけをぶね。鬱陶しいまでにさかしらな批評の言葉が生い茂っている歌界の蘆原を私は「もののあわれ」という小船で渡っていきますという宣言の歌論。 歌の道は善悪のぎろんをすてゝ、ものゝあはれと云ふことをしるべし(p55) 人の情のありていは、すべて…
お知り合い、内輪モードのぬるさはありつつ、現代日本のカトリック言説の最上層の御意見をいただく。 言葉の本来的な意味を考察しながらの教えは傾聴に値する。 【罪】 ギリシア語で罪はアハマルティアというのですが、これは元々は「的外れ」、という意味な…
超感性的世界、イデアの世界は仮象であるというニーチェのニヒリズム解釈を朝湯で迎え撃つ。 風呂入って本を読んでいる私の姿は見せられたものではないけれど、真理より芸術がいいというニーチェの議論は万人に見てもらいたいものである。 一 芸術としての力…
ハイデッガーの論理展開の複雑さに加えて、訳者の訳語選択の思い入れの強さも影響して、ただならぬ読みづらさを湛えたテクストとなっている。読み取れるのはニヒリズムに対する向き合い方が示されているのであろうという、その方向性。内容は2回読んでもよ…
本日テレビは火山祭。地球の活動に人間の活動を比較してみると、人間というものはいじらしい。 ヘルダーリンの『エンペドクレス』は最後エトナの火山に身を投じたが、なにもいわずに受け入れたエトナの火山こそ、存在するものとしての偉大さを持っている。そ…
文庫版か新書版じゃないときついけど、読めそうもないと思っている積読本は風呂場に持ち込むと意外に読みすすめることができる。最大の理由は、風呂場にはその本しかないから。 ということで、今回ハイデッガーの『ニーチェ』全二冊を風呂場で読みすすめるこ…
木田元いわく「私は、哲学書を読むのに何から読めばよいかと人に尋ねられると、まずこの細田訳の『ニーチェ』を勧めることにしている」。目利きの誘いに乗ってみるというのもおもしろそうです。 マルティン・ハイデッガー『ニーチェ Ⅰ 美と永劫回帰』(原書 …
フライブルク大学教授就任にあたっての公開就任講演。内容が「無」と「不安」という概念をめぐるものであったため、講演後にニヒリズムの思想ではないかなどといった非難や誤解が多く発生、そのため、後に「後語」と「緒論」を追加することになった。その間…
劇的効果に冴えを見せる中世を舞台とした宗教劇。ままならぬ想いに、世界は暗く沈み込むようなすすみゆきを見せるが、苛烈な奇跡と恩寵によって人々の世界は一変する。若い世代の男性二人女性二人の関係性が八年の時間経過の中で鮮やかに描き出される。女性…
2015年春、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催された個展の公式カタログ兼書籍。 タイトルは日本語のほうが含みがあってよい。他の作品のタイトルには旧字が使われていたりするので、バイリンガルの書籍という体裁をもつ本作品にあっては、翻訳の問題な…
読み通したあとに「訳者あとがき」でもともと点字出版のために書かれたテクストだったということをはじめて知り、哲学史にしては変な配分だなと思いつつ読んだ文章の意味合いを、あらためて想像してみようと思った。 原書のタイトルは『盲人のための哲学概論…
ムンク3連投。 図版80点。色彩はやや抑え気味で、色調が若干茶色側によっているような印象。人物像についてはより肉感的に見えるので、初期の女性像などはより魅力的に見える。 身体の質感がより充実してみえるのに比例して、身体に宿っている精神の状態…
ムンク連投。 コロナ・ブックスは図版が大きく色彩も鮮明。意外にふくよかで生命感を湛える女性を描いた作品、たとえば「人魚」や木版画の「森へ」などの魅力は増している。ただ、ムンクの代表的な画にはもうちょっと暗いほうが禍々しさが薄れずにいいかもし…
同時期に起こった作者クローデルの信仰の危機と恋愛の危機を起点として成立した劇作。男性三人女性一人の四角関係、神話的激しさを持ち、刺激は強い。 【脳内上演キャスト】イゼ (ド・シーズの妻): 佐藤江梨子メザ (後にイゼの恋人): 神木隆之介ド・シ…
フリーズは冷凍、凍結、氷結ではなく建築用語からの流用。「叫び」の状態のまま生が固まってしまうということをねらって言っているものではない。 「フリーズ」とは、元来は建築用語でギリシアの神殿建築における列柱上部の、通常は絵や浮き彫りで飾られた帯…