読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

高橋睦郎『百人一句 俳句とは何か』(1999)

定家の『百人一首』にならい、『古事記』から20世紀末の高柳重信、永田耕衣までの百人から一句ずつひろった俳句アンソロジー。 百人一句|中央公論新社 内訳: 前連歌時代 十人 倭建命から後深草院少将内侍まで 連歌時代 十人 善阿法師から法眼紹巴まで 俳諧…

足をのばす良寛

自制を少しゆるめるとき、足をのばして過ごす良寛が姿をあらわす。【歌】きさらぎの末つ方雪のふりければ 風まぜに 雪は降り來ぬ雪まぜに 風は吹き來ぬ埋み火に 足さしのべてつれ/\と 草のいほりにとぢこもり うち數ふればきさらぎも 夢の如くに盡きにけら…

ショーペンハウアー『幸福について―人生論』

原典は『筆のすさびと落穂ひろい』(1851)の「処世術箴言」。著者63歳の時の著作。思い切り要約すれば「健康で、余暇があって、朗らかに過ごせていれば幸福であろう」となる。ぜんぜんペシミストぽくはない。 少し変わった視点: 1.金銭は抽象的に欲望…

ロジェ・カイヨワ『聖なるものの社会学』

原題は『現代社会学に関する四つのエッセー』(1951)。 戦争と祭とは、どちらも動揺と喧騒、そして大いなる会合の時期である。そしてその間、貯蓄経済は濫費経済によって代わられる。そこでは交易や生産によって蓄積され、営々として手に入れられたものが、…

『宗教と生命』激動する世界と宗教(第三回 2018.09)

連続シンポジウム「激動する世界と宗教 私たちの現在地」の第三回講演録。パネラーは池上彰、佐藤優、松岡正剛、安藤泰至、山川宏。 第Ⅰ部の対論の「有用性の論理」についての議論が印象に残る。 遺伝子組み換えの大豆や小麦には抵抗感があるのに、山中先生…

『宗教と暴力』激動する世界と宗教(第二回 2018.04)

連続シンポジウム「激動する世界と宗教 私たちの現在地」の第二回講演録。パネラーは池上彰、佐藤優、松岡正剛、石川明人、高岡豊。 佐藤優の仏教への言及が印象に残る。 「縁起」については、因果をもとにつくり出されているいるのが現在なのだから、今を嘆…

『宗教と資本主義・国家』激動する世界と宗教(第一回 2018.03)

連続シンポジウム「激動する世界と宗教 私たちの現在地」の第一回講演録。パネラーは池上彰、佐藤優、松岡正剛、碧海寿広、若松英輔。 佐藤優のペルジャーエフへの言及が印象に残る。 ペルジャーエフは、「何かを信じていない人間は存在しない」という。無神…

長田弘『死者の贈り物』(2003)

今回は三日で三回ぐらい読んだ。だんだん詩の言葉が沁みこんでくる。 www.msz.co.jp いつのときもあなたを苦しめていたのは、何かが欠けているという意識だった。わたしたちが社会とよんでいるものが、もし、価値の存在しない深淵にすぎないなら、みずから慎…

バートランド・ラッセル『ラッセル 幸福論』岩波文庫

原書は1930年の発行。ラッセルの文章は数理哲学者だけあって論理的で、安藤貞夫の訳はこなれた日本語でかなり読みやすいものになっていると思う。 www.iwanami.co.jp 以上の実例から、一般的な公理が四つ示唆される。これらの公理は、その真理が十分に理解さ…

バーバラ・ストック『ゴッホ 最後の3年』

ゴッホの最期の3年をマンガにした作品。オールカラー。 マンガを読むと、切った耳が左側であること(自画像は鏡を見て描いているので右側に見える)や、エキセントリックなゴッホの言動がはっきりと印象にのこる。黄色い家での「画家の協同組合」の理想実現…

千足伸之『すぐわかる20世紀の美術 フォービスムからコンセプチュアル・アートまで』(2008)

穏健な入門書。第二次世界大戦以降の現代美術の紹介がある。コンパクトに広範囲をカバーしている。 東京美術 千足伸之『すぐわかる20世紀の美術 フォービスムからコンセプチュアル・アートまで』 内容: 第1章 第一次世界大戦までの美術(1890年代─1918年)…

山田五郎『知識ゼロからの近代絵画入門』(2019)

山田五郎の解説は、なじみやすい語彙が選択されている上に、凝縮度が高い。この本の対象である近代絵画のポイントは「色と形の自由化」。 絵の上手さだけではブレイクできなかったピカソが注目したのが、アフリカ彫刻とゼザンヌと素人画家のルソーでした。共…

佐藤優+竹内久美子『佐藤優さん、神は本当に存在するのですか? -宗教と科学のガチンコ対談』

タイトルからわかるように佐藤優に依存した対談。対談の相手は動物行動学研究家を名乗るエッセイストの竹内久美子で、彼女に科学の側の立場を代表させるのはかなり無理がある。リチャード・ドーキンスの発想(利己的遺伝子、ミーム)を自己展開するでもなく…

亀井俊介編『対訳 ディキンソン詩集』(岩波文庫)

対訳に解説と訳注をコンパクトにまとめて、50篇の詩を紹介している。選択されているのは比較的メジャーな詩が多いかもしれない。※ほかの選集と被っている印象が強い。 以下は、訳注も含めて本書の特徴が出ていると私がおもったところ。 Himself - to Him -…

『本についての詩集』長田弘 選 (2002)

長田弘が選ぶ本について書かれた詩の選集。92人、92篇からなる。 www.msz.co.jp2002 たとえば飯島耕一の詩、 わたしは母国語で日々傷を負うわたしは毎夜 もう一つの母国語へと出発しなければならないそれが私に詩を書かせ わたしをなおも存在させる。(飯島…

長田弘 『詩の樹の下で』(2011)

あらゆるものには距離があるのだ。あらゆるものは距離を生きているのだ。(中略)何もないんだ。雲一つない。近くも遠くもないんだ。無が深まってゆくだけなんだ、うつくしい冬の、窮まりのない碧空は。幸福? 人間だけだ。幸福というものを必要とするのは。…

谷川俊太郎 『私』(2007)+ 武満徹 『夢の引用』

言いたいことはないのに起き出して紙に語を並べるのは言葉を石ころのように転がしておきたいから(「入眠」p37) 獣の睦言鉱物の喃語(「≪夢の引用≫の引用」p71) 谷川俊太郎『私』(2007年11月/思潮社) - 日本現代詩歌文学館 武満徹の音楽に想を得…

谷川俊太郎 『シャガールと木の葉』(2005)

追悼の詩が多く収められているので生の有限性に想いが行く。チャールズ・M・シュルツ、矢川澄子、寺島尚彦、高橋康也、川崎洋、石垣りん。 以下の抜き書きは、追悼詩とはべつの詩作品から。 どんな時代の荒地にも芽吹く名もない草花その種子はすでに用意され…

池上高志『動きが生命をつくる 生命と意識への構成論的アプローチ』(2007)

著者はじめての単著。私が手にしているのは2011年の第4刷。最先端のとがった研究成果を一般読者向けに紹介してくれている。一般向けではあるのだが、前提知識がないとある程度自分で調べながら読み進めていかないといけないかもしれない。いちいち調べるの…

谷川俊太郎 『夜のミッキー・マウス』(2003)

「夜のミッキー・マウス」「朝のドナルド・ダック」「詩に吠えかかるプルートー」「百三歳になったアトム」とアニメのキャラクターが登場する四詩篇からはじまるこの詩集は、『ペンギン村に陽は落ちて』から『さようならクリストファー・ロビン』にいたる高…

『作って動かすALife 実装を通した人工生命モデル理論入門』

著者:岡 瑞起、池上 高志、ドミニク・チェン、青木 竜太、丸山 典宏 www.oreilly.co.jp2018 Alife(エーライフ):人工生命、Artificial Life。 コンピュータを使って生命の挙動(生命性)をシミュレートする。 オライリーから出ている本で、プログラミン…

山田五郎 『知識ゼロからの西洋絵画入門』

一流の美術愛好家(留学経験あり)の山田五郎がルネサンスからシュルレアリスムまでの500年を愛すべき34人の画家で紹介。 ボッティチェリ ビーナスの誕生 1445 - 1510 イタリア ボッス 快楽の園 1450頃 - 1516 ネーデルランド ダ・ヴィンチ モナ・リザ 1452 …

千足伸行 すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】

ホメロスとウェルギリウスを読んで神話の神々にも親しみが湧いてきたので、ビジュアル面でも補強。 東京美術 すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画【改訂版】 上記サイトでの紹介記事: 描かれた場面のベースとなったのはどんなストーリーか、作品にはどの…

コクトー詩画集 『ぼくの天使』

乾いたポエジーが魅力の詩画集。 彼は太陽を愛した。自分が大地になるだろうから彼の詩の女神は、波動であり、電気だった(「墓碑銘」p30) 湿った夜と湿った昼でこころがズブズブになっているようなとき、天翔けるコクトーの天使とペガサスが余分な湿気を払…

多田将『宇宙のはじまり 多田将のすごい授業』

多田将は高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所の准教授。 高エネルギー加速器研究機構とは、粒子を「加速」させることで、「高エネルギー」状態を作り出し、その状態を「研究」するところなのです。(「過去を見るとは、物質の高温の状態を見るこ…

世阿弥『申楽談義』

「九位」「花鏡」に比べてより具体的な芸道の教えがつづられている。 岩波文庫版はひらがな・カタカナに漢字のルビ(傍漢字)がついていて、文書の形態としての面白さも感じられる。 www.iwanami.co.jp たとへ、天性の名人なりとも、稽古の次第/\、道に立…

土屋恵一郎 『処世術は世阿弥に学べ!』

世阿弥の「風姿花伝」「花鏡」の能楽論をもとに書かれたビジネス書。世阿弥の言葉は孫子の兵法などに通じるものがある。 www.iwanami.co.jp 2002 世阿弥の大きな教えはやはり「初心忘るべからず」ということ。 いつの年齢でも「初心」を忘れるなと、世阿弥が…

世阿弥の「花鏡」(かきょう) 各段詞書+主要部分抜き書き

世阿弥花鏡(かきょう)1424 日本の芸術論の一頂点を概観する。 段落詞書 よみ 主要部分抜き書き 一調二機三聲 いっちょうにきさんせい 調子をば機にこめて、聲を出す 動十分心動七分心 どうじゅうぶんしんどうしちぶしん 心を十分に動かして身を七分に動か…

高見順詩集 (三木卓編 彌生書房 世界の詩 78)

病気がちだった詩人が生ききるために綴った詩、98篇。 種子 葡萄の種子の小さな黒い硬さよ飲まれ易くても消化されない固さよ消化されず理解されないことによって芽生える種子よ(p132) 「心弱まる己れを叱る」と付記された詩篇。 自らに与える詩 執拗に、頑…